26.不透明な空の下で
――四時間目の体育の授業を終え、体育館の脇を通りかけた時。
半田さんと青空くんが、体育館の横の草むらに入っていくのが見えた。
青空くんは制服姿に着替え終えてるけど、半田さんは未だに半袖ジャージ姿。
気になってついていく。
体育館の角につくと、半田さんの声が耳に飛び込んできた。
「あの……。えっと……」
緊張しているような声が届く。
「うん、どうしたの?」
「実は、高槻くんのことが気になってました。私と付き合ってください!」
予想外の事態に、びっくりして壁に貼りついた。
胸が焼けるように熱くなる。
半田さん、青空くんのことが好きだったんだ。
震えた拳を握りしめたまま、耳を澄ませる。
「半田さんと、あまりしゃべったことないけど」
青空くんは、少し戸惑ったように、ふっと息を吐く。
意識が二人に向いているせいか、周りの音がなにも聞こえなくなった。
「高槻くんは、明るくて、親切で、優しいし。部活のチラシを配ってる姿も頑張ってて、そういうところを見ているうちに、いいなと思ってて」
半田さんは、青空くん自身をしっかり見ている。
だから、余計に息が苦しい――。
「でも僕、半田さんのことよく知らないし」
「いいの。これから少しずつ知ってくれればいい」
青空くんは、なんて答えるんだろう。
半田さんは押しが強いタイプだから、引かないだろうし。
喉をゴクリと鳴らし、壁の横から顔を覗かせた。
残念ながら、誰が見ても二人はお似合いだ。
見ているだけで悔しくなり、思わず拳を握った。
青空くんの髪は風に煽られ、俯いていた。
私の鼓動が、風に乗って、彼に届いてしまうのではないかと思うくらい、胸がドキドキしている。
やだ、私……。
友達が好かれて嬉しいはずなのに、喜んでいない。
校舎から溢れている声を浴び、再び壁の後ろに隠れて、ぎゅっと目を閉じた。
「ごめん。僕、誰とも恋愛する気ないんだ」
届いたのは、青空くんの穏やかな声。
私の肩の力がすっと抜けていく。
私を見る目も、賢ちゃんを見つめる時と変わらないから、多分……無関心。
喉の奥が詰まる感覚がした。
「どうして?」
「恋愛に興味ないから」
えっ、嘘でしょ?!
恋愛に興味がないって、高校生なのに……。
「私と付き合ってくれたら、毎日楽しくしてあげる。絶対、ぜったいに! 自信あるよ!」
半田さんの声は意気込んでいた。
私の心臓は押しつぶされていく。
「……でも、ごめん。僕、いま自分のことで精一杯で」
「これからは私が隣で支える! バレー部……応援したいし」
半田さんは、一歩も引かない。
本気で青空くんのことが好きなんだね。
「ありがとう。……でも、半田さんの気持ちは受け取れない」
思いの外、青空くんの言葉がくっきり聞こえると、ふぅっと息が漏れた。
青空くんの声が止まると、足音がこちらへ向かってきた。
まずい。聞き耳立てていたことがバレちゃう!
私は汗の香りが残っている体育館の扉裏にサッと隠れる。
雑草を踏みしめる音が近づくと、心臓がドキドキ揺れた。
息を整え、気持ちを落ち着かせる。
青空くんが校舎に入っていく背中を見届けると、すっと腰を落とした。
そうだよね。引っ越してきたばかりで、勉強や部活で大変だもんね。
両手を口元に当て、深いため息をついた。
こんな風に思うのは酷いかもしれないけど、青空くんが告白を断った瞬間、なぜか心がすっと軽くなった。
どうしてだろう……。
真っ青な空に浮かぶ雲を見つめた。
雲の形が、風に乗って広がっていく。
私の気持ちも、その形を掴めないまま揺れていた。




