25.支える場所から
――朝、僕と賢ちゃんは、校舎に繋がる通路で、バレー部勧誘のチラシを配っていた。
太陽から容赦なく降り注ぐ日差しに、蒸し暑い熱風。
体にまとわる汗が、僕の気力と体力を奪っている。
「おい、大丈夫かよ。ちゃんと水分補給してる?」
賢ちゃんの声にハッとして、額に敷き詰められている汗をぬぐった。
そんな賢ちゃんも、頬から顎へと汗が流れ落ちている。
「ありがとう。賢ちゃんも無理しないでね」
にこりと微笑むと、足音が近づいてきた――美心だ。
「おはよう! お二人さん! 朝から大変だね」
「あ、美心。おはよー」
「うっす! 今日は早いな」
最近日焼けをしてきた僕たちとは対照的に、肌が白い彼女。
その笑顔に、少し心が軽くなる。
「部員、まだ集まらないの?」
美心は目線を落とし、チラシを見つめる。
「一人見学に来てくれたんだけど、その後はパッタリ……。僕の呼びかけが足りないのかも」
「ほとんどの奴が素通り。興味ねぇんだろうな」
賢ちゃんは、手元のチラシを見つめ、深いため息をつく。
美心はそんな賢ちゃんを見て、目線を落とした。
指先がわずかに上がったが、すぐに拳を握った。
「……そっかぁ。部員、早く集まるといいね。応援してる」
美心はにこりと微笑んだ。
一瞬、何か言いたいことがあるように見えた。
でも、彼女のそのひとことに、僕の胸がじんわりと温かくなった。
――五分後。
バレー部の堤先輩が僕と目が合い、校門から駆け寄ってきた。
手前で足を止め、僕と賢ちゃんを見つめる。
「おは! 何してんの?」
「あっ、堤先輩! おはよーっす」
「どうしても市の大会にエントリーしたいから、今月中にメンバーを集めたくて」
堤先輩の目線が、僕と賢ちゃんのチラシへ向くと、腕を組んで、ため息をついた。
「それはめっちゃ嬉しいんだけどさ、どうして僕に声をかけてくれなかったの?」
「……切り出しにくいというか。先輩、朝自主練で疲れているだろうと思って」
僕は先輩と同じメニューをこなしているから、疲れていることを知っている。
そんな背中を毎日見ている分、当然声なんてかけられなかった。
「そんなの高槻も同じだろ? 僕以上に頑張ってるし」
「でも……」
「チラシ配りなら、僕に相談しろよ。こう見えても部長候補……だからさ」
堤先輩の笑顔に、僕と賢ちゃんの緊張が少しほどけた。
「堤先輩! 部長候補って、マジっすか?」
賢ちゃんが前のめりに聞くと、堤先輩は目を逸らし、頬をピンクに染めた。
「せっかく大会に出るなら、勝ちたいじゃん!」
「さっすが、次期部長! 俺も頑張るっす!」
賢ちゃんはチラシを持って、再び生徒の前に向かった。
僕は、美心の『応援してる』がまだ胸の中に響いている。
試合に出れなくても、ここに立つ意味がある。
この一分一秒が、部の未来の光になることを切実に願っているから。
僕はチラシを握りしめ、息を大きく吸う。
「今日も全力でいこう!」
「おう!」
「やったるで!」
三人はそれぞれの配置についた。
校門を抜ける声が響き、チラシがゆらゆらと風にはためく。
――僕たちの声が、部の未来に繋がりますように。




