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21.楽しいはずだった日



 ――三日後。私と青空くんと賢ちゃんは、学校の近くのボーリング場へ行った。

 館内は、ボールがピンに当たる衝撃音が鳴り響いている。

 

 受付後、私たちは専用シューズを持って、指定されたレーンへ向かった。

 高齢者や子ども連れの家族。

 視界の隅に、同じ制服を着ている学生がちらりと見えた。

 

 私は初めて見るボーリングの光景に、胸がドキドキする。


「……私、ボーリング初めてなんだ」


 笑われる覚悟を決めて言った。

 隣から「同じく!」と青空くんが言ったので、ほっとする。


「二人とも初心者かぁ」

「賢ちゃん、ボールの投げ方を教えてね」

 

 キラキラとした期待の目が二つ並ぶと、賢ちゃんは腕を組んでフンッと鼻を鳴らした。

 

「よし! 俺がおまえらをプロボウラーにしてみせるぜ」

「賢ちゃん、ボーリング得意なの?」


 尊敬の眼差しで聞くと、賢ちゃんは笑顔で頭を下げた。

 

「さーせんっ! 四、五回目です!」

「あはは。もっとやってるかと思った」


 賢ちゃんは、相変わらず人を和ませるのが上手だ。 

 第一投目は、賢ちゃん。

 ボールを投げると、レーンの左側へ向かい、溝に滑っていった。


「最初からガーターかよ……」


 賢ちゃんが残されたピンを見つめたまま、顔をしかめる。

 

「ねぇ、賢ちゃん。それ、何点になるの?」


 青空くんは真顔で聞いた。

 私はそれが可笑しくて、プッとふいた。

 ボケに加担するために、手を添えながら賢ちゃんに聞こえるように呟く。

 

「しっ……。あれは0点だよ」

「つまり、点数にならないやつ?」


 ヒソヒソ話していると、賢ちゃんは足音を立てて青空くんの前へ来た。

 

「もう一投チャンスがある! 俺はそれに賭けるぜ」

「え、まだあるの?」


 青空くんの目はきょとんとしている。

 私はこの温度差に我慢できなくて、お腹を抱えて笑った。

 

「見てろよぉ〜〜。このプロボウラー賢を……!」


 賢ちゃんは戻ってきたボールを磨いて、二投目を投げた。

 ピンが三本倒れると、賢ちゃんはブツブツ言いながら戻ってくる。


 最初は男友達なんて……と思っていたけど、考えていたより全然楽しい。

 二人が盛り上げてくれるから、度々笑い声を上げながらボールを投げていた。 

 視界の端に、何となく同じ制服の影がちらりと見える。

 でも、確認するほどでもない。


 一ゲームが終わると、私たちは食い入るように画面のスコアを見た。

 賢ちゃんは画面に指をさす。

 

「ビリは美心、か……。じゃあ、罰ゲームね」

「えぇ〜、そんなぁ」


 残念な結果に、ガクッと肩を落とす。

 

「青空は、初めての割に点数取れてるじゃん」

「え! 本当?! 褒めてくれてるの?」

「ま、まぁ……、そういうことにしておくよ。しっかし、美心はマジでヘタクソだなぁ」


 賢ちゃんはスコアを見つめたままケタケタと笑う。 

 私はムスッと口を尖らせた。


「これでも一生懸命やったのに」

「女子にはボールがちょっと重いのかもしれないね」


 青空くんは、そう言ってふっと微笑んだ。

 賢ちゃんとは大違い。


「青空は優しいね。ほら、美心は早く三人分ジュース買ってきて」

「しょうがない。次は絶対に勝つからね!」


 ムスッとしながら小銭を回収し、一人で自販機に向かった。

 三本のドリンクを胸に抱えると、ひんやりとした感触に、興奮の熱が少しずつ溶けていく。

 友達って、楽しい。

 こんな風に笑い合える友達ができるなんて、信じられない。

  

 席へ戻る途中、同じ制服を着ている女子生徒が視界に入った――佐知だ。

 佐知は目を大きく見開いた。


「み、美心。こんなところで、会うなんて……」


 震えた声で、口元に手を当てる。

 私は激しい心拍が上がり、息苦しくなった。

 さっと視線を反らし、踵を返す。

 

「ま、待って! あたしの話を聞いて欲しいの!」


 佐知の必死な声が、稲妻のように背中に刺さった。

 胸の中のモヤが体中に広がり、足が止まる。


「美心に伝えなきゃいけないことがあるの!」


 いまさら、なによ……。

 私たちは、もう他人なのに。

 ドリンクの冷たさで指先が冷たくなっていき、わずかに震えた。


「たった一度でいいから、耳を傾けて欲しい。あの日のこと、ちゃんと話し合わないと」


 早く離れたい。

 でも、なぜか鉛が乗ったようで、体が動けない。

 

「話したく、ない……。もう、二度と話しかけてこないで」


 声を低く絞り出した。

 あの時、廊下に落ちていた紙のざらついた感触が、今でも忘れられない。

 心臓が高鳴り、呼吸が荒くなっていく。


「でも、あたしまだ……」

 

 彼女は一歩前に出た。

 なによ……、裏切ったくせに。

 佐知だから、本音を伝えていこうって決めたのに。

 私は拳を握り、言葉を振り切るかのように席に戻った。

 小さなテーブルに、三本のドリンクをドンッと置く。


「ごめん。急用ができたから、先に帰るね」


 青空くんと賢ちゃんの顔を見る余裕がない。

 荷物を鷲掴みして、ボーリング場を出た。

 

 通行人がちらほらと歩いている歩道に、私の足音は吸い込まれていった。

 途中、足が止まりそうになった。

 でも、振り返ったら佐知がいる。

 関わってしまったら、また傷つく。

 もう、二度とあんな事件には巻き込まれたくない。

 


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