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18.繋がる鼓動



 ――放課後。

 西日が差す教室内は、クラスのざわつきが溢れている。

 リュックに荷物をまとめた僕は、美心の席へ向かった。

 

 目が合うと、美心はサッと目を逸らして席を立ち、歩き出した。

 僕は、すかさずその手首を掴む。


「待って!」


 彼女は振り返った。

 僕は静かに息を整えて、口を開く。

 

「僕と、話……しない?」

 

 彼女の瞳は揺れていた。

 研修合宿の日より、少し穏やかに見える。

 

 彼女は小さく息を落として、頷いた。

 

 僕たちは一緒に廊下へ。

 彼女の手を引いたまま歩くと、生徒たちの視線が集まる。


「やだぁ〜。やっぱりあの二人……」

「選ぶ相手が間違ってるよね。どうしてあの子なの?」


 女子たちのヒソヒソ話が耳に届く。

 でも、噂はもう慣れた。

 

 彼女が気になって、目を向けた。

 困惑したように俯いている。

 僕は手をパッと離した。


「空気読めなくて、ごめん」

「……平気。もう慣れたし」

 

 微妙な距離感が漂う中、僕たちは中庭へ向かった。 


 ――中庭に到着すると、生暖かい緑の香りが僕たちを包んだ。

 ゆっくりと振り返り、彼女の瞳を見つめて、頭を下げる。


「この前は、ごめん。美心の気持ちも考えずに先走ってた」


 つい自分の気持ちを押し付けてしまった。

 気付いたのは、賢ちゃんに指摘されてからだけど。

 

「ううん。青空くんは、私が色んな人と仲良くして欲しかったんだよね」

「次はちゃんと相談する。だから、美心と仲直りしたい」


 遠回りはしたくない。 

 彼女は、ふっと息を漏らして呟いた。


「……私も、青空くんと仲直りしたい」


 僕は予想外の返事に、パアッと目を見開く。

 

「本当にっ?」

「うん。私も、ひどい言い方をして後悔してたの。本当にごめんね」


 彼女は眉を下げて、ふっと笑う。

 久しぶりの笑顔に、僕は肩の力が抜け、緊張が解ける。

 

「良かった……仲直りできて」

 

 仲直りには、もっと時間がかかるかと思っていた。

 驚きと、安心が混ざった感覚に。


「実はランチを断ったのは、メンバーの中に佐知がいたからなの」


 意外な答えに、僕は目を丸くする。

 岡江さんは、美心と仲良くしたいように見えていたから。

  

「でも、岡江さんは昔みたいに喋りたいって言ってたよ?」


 二人の温度差に少し戸惑う。

  

「合宿の時に言ってたトラウマのもう一つは、佐知とのケンカだったんだ」


 木漏れ日の影が、彼女の顔を覆った。

  

「ごめん、事情を知らないクセに勝手なことをして……」

「いいの。私が言わなかっただけだから」

「でも、どうしてケンカを? 岡江さんは仲直りしたそうに見えたけど」


 ハッと賢ちゃんの言葉を思い出して、口を塞ぐ。

 そろりと美心の顔を見るが、特に気にする様子ない。

 

「ごめん……。また悪いクセ」

「いいの。いまから言おうとしてたから」


 僕がベンチに座ると、彼女は隣に座った。

 肩を並べて座ると、こんな小さな体で牙をむき出しにしていたんだと、改めて思う。

 

「小学五年生の時、佐知は自慢の親友だったの」

「だから、『昔みたいに、なんでも話したい』って、言ってたんだね」


 いまなら、岡江さんの言っていた意味がわかる。

 

「うん。人が苦手だったけど、彼女のおかげで心を許せるようになった。……でもある日、事件が起きたの」


 風がふわりと吹いて、彼女の髪を揺らした。

 

「交換日記に、『美心の好きな人はだれ?』って書いてあった。素直に書いたけど、その部分だけが破かれて、廊下に捨てられていた。拾った時は、胸が張り裂けそうだったよ」


 彼女は遠い目をし、軽くまぶたを伏せる。

 

「拾ったのは幸い自分だったから、噂にならずに済んだの。親友だから、秘密を打ち明けたのにね」


 震えている拳の上には、一滴の雫が弾いた。

 僕はそれを見て、胸が締めつけられた。

 辛そうにしていたのは充分伝わっていたけど、美心がここまで思い詰めていたなんて……。

 僕は、彼女の言葉を思い返しながら、そっと手を添えた。


「もう、大丈夫だよ」


 彼女は右手で目をこすり、驚いた表情を見せる。

 

「僕はそんなことをしないし、美心に幸せになって欲しい……それが、僕の願いだから」


 僕にはこれくらいのことしか言えない。

 美心が人を信じることができたら、きっと、もっと幸せになれる。


「あ……りがと」


 彼女の声は震えていた。

 少しは、僕の気持ちが届いてるといい――。


「そうだよね、逃げてばかりいても、正解は見つからないよね」


 その瞳は、未来を見つめるように遠くを見ている。

 

「うん。一緒に少しずつ探していこ」


 僕は彼女の決心に、小さく頷いた。

 まっすぐ前を向く姿勢に、胸が温かくなる。

 僕は息を整えて、小指を差し出した。


「じゃあ、これからも友達でいてくれる?」


 彼女は小さく頷き、笑顔でそっと指を絡める。

 柔らかい手が、彼女の体温を伝えてきた。

 

「うん。約束」


 ――残り二十四日間。

 この時間をフルに使って、美心を必ず笑顔にしてあげたい。



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