表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/38

12.チラシ一枚の奇跡



 ――汗が額を伝う。今日こそ、誰かに”声”を届かせたい。

 僕は校門に立った。

 カバンからあるものを取り出し、校舎へ流れてくる生徒に向かって声を上げ、配り始めた。


「男子バレー部に入りませんかぁ〜? 一緒に青春の汗をかきませんか〜?」


 男子生徒が目の前にやってくる度に、にこりと微笑みながらバレー部員募集のチラシを向けた。

 誰かの心に届くようにと願いながら。

 このチラシは、昨日の放課後、パソコン室で作ったもの。

 賢ちゃんのアイデアを参考にして、勧誘を始めることに。

 

 でも、だいたいの人が受け取らない。

 みんなそれぞれの事情を抱えているのだろう。


 校門の向こうから賢ちゃんがリュックを揺らしながら、こっちへやってきた。


「こんな朝っぱらから、なにやってんだよ」

「バレー部の勧誘だよ。でも、全然受け取ってもらえなくて」


 僕はチラシを見せると、賢ちゃんは受け取って、じっと見つめた。

 

「これ、お前が作ったの?」

「うん。僕は初心者だから、せめて部活の貢献をしようかと思って」


 人数、集めなきゃいけないし。

 

「嘘、だろ……」

「大きな声を上げていれば、きっと誰か聞いてくれるんじゃないかと思って」


 にこりと笑うと、賢ちゃんは瞳を潤ませて、僕の方をポンッと叩いた。

 

「おまえ……、ほんといい奴!」

「そ、そんなことないってば!」

「じゃあ、半分手伝うよ」


 僕はうんと頷き、チラシを半分渡した。

 

 しばらく配布をしていると、バレー部員が続々と登校してきて喜ばれた。

 もう、一人前のバレー部員として認められているかな?

 ……なんて、思ったりして。


「なに、バレー部? いま部員募集してんだぁ〜」


 両耳にピアスをしている黒縁メガネの男子生徒が、チラシをひょいと受け取って眺めた。

 僕は初めて返事に、気分が上がる。


「よかったら、一緒にどうですか? みんな優しくて、いい人たちです!」


 前のめりになっていると、彼はチラシをクシャっと丸め、僕の頭上に投げて、地面に転がった。

 それを見た途端、息が詰まった。


「あははっ。せっかく玉投げてやったのに、こんなのも拾えねぇの?」


 メガネの彼は、薄笑いをしながら場を離れていく。

 僕は震えている手でチラシを拾うと、賢ちゃんがメガネの彼の襟元を掴み上げた。


「てんめぇ! 何してんだよ、こらぁ!!」

「何って? 遊んであげたの。その方が盛り上がるっしょ」

「はぁっ?! こっちは真剣に配ってんだよ! 青空がどんな気持ちでチラシを作ったか考えてみろよ!」


 まずい……。

 このままでは、二人とも傷つけあってしまう。

 僕は、賢ちゃんの揺れている手を掴んだ。


「相手にしなくていいよ。僕は大丈夫」

「全然大丈夫じゃねぇだろ」


 賢ちゃんは歯を食いしばり、足を一歩踏み込ませた。

 遠くから聞こえてきたクスクスと笑う声が、耳の奥を突いて、胸の奥をざわつかせる。

 僕は冷や汗を滲ませたまま、二人を引き離した。


「興味がないなら、帰ってくれませんか? 僕たち、忙しいので」

 

 冷静な声で言うと、メガネの彼は鼻で笑った。


「冗談言っただけじゃん。ノリ悪ぃな」


 襟を正し、不機嫌な顔を向けると、校舎の方へ去っていった。

 賢ちゃんは背中を追いかけようとするが、僕はすかさず賢ちゃんの腕を掴んで、首を振った。


「あいつにムカつかねぇの? こっちは一生懸命やってんのに」

「怒っても、何もプラスにならないよ。それより、残りの時間を大事に使おう」


 僕はチラシをぎゅっと握りしめた。

 賢ちゃんは首を縦に振り、足音を立てながら元の位置に戻っていく。

 僕は定位置に戻ろうとすると、視界の片隅に美心の姿を発見した。

 深めの深呼吸をし、小走りで近寄り、目の前にチラシを向ける。


「おはよう! 美心もバレー部に入らない?」

「えっ……」


 彼女は足を止めた。

 困惑の表情を浮かべ、カバンの取っ手をギュッと握りしめている。

 

「いま女バレも募集してるみたいだし、どうかなと思って」


 美心は俯いて、小さく息を漏らした。


「僕は初心者だけど、みんな優しくて。それに、体を動かしてると楽しいよ」


 バレーボールが、学校に来る楽しいきっかけの一つになればいい。

 彼女はチラシに目を落とした。

 少し揺れた指先が上がり、軽く目を通しているようにも見えたが、諦めたようにサッと目をそらす。

 

「きょっ、興味……ありません。球技とか、見るのは好きだけど、あまり得意ではないので。……失礼します」


 目線が揺れた後、軽く頭を下げて、僕の横を走り去っていく。

 僕は息を整えながら、彼女の背中を見つめた。

 その背中に、わずかな希望の光を見つけた気がした。


 賢ちゃんは僕の隣に駆け寄ってきた。

 同じ方向を見つめ、僕の肩に手を乗せる。


「あいつ、相変わらずだな。友達になるには、まだ時間がかかりそうかも」


 僕は見逃さなかった。

 彼女の瞳の奥に、少しだけ警戒が緩んだ様子を。

 

「でも、返事が少し変わったよ?」

「俺にはわかんなかったけどね」

 

 美心の心はまだ深く閉ざされていた。

 けれど、ほんのわずかな変化に、僕の心がポッと温かくなった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ