表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/38

10.君だけの景色



 ――僕は約束通り、賢ちゃんにジュースを奢ってから、渡り廊下へ移動した。

 ガラス窓越しに、雲の隙間から薄日が差している。

 僕たちは淀んだ空気に包まれ、まばらに目の前を通り過ぎていく生徒たちを眺めていた。


「学校内でお姫さま抱っこなんて噂になるだけだろ。実行する前に考えなかったの?」


 賢ちゃんはペットボトルの蓋を開き、ジュースで喉を潤した。

 どうやら、僕の心配をしてくれているらしい。

 僕はふっと笑い、ペットボトルを口にした。

 

「美心の怪我以外、考えてなかった」

「ばーか! 普通考えるだろ。誰になにを言われるかくらいはさ。ネタに尾ヒレをくっつける奴ばかりだぞ?」


 賢ちゃんの噂を真に受けないスタイルが、僕の心を滑らかにしていく。 

 言葉は乱暴だけど、オーラに包まれているかのように温かい。

 ……こんな人も、いるんだ。

 

「普通……か。人って、噂になることを避けるんだね」


 僕は小さくため息をつく。


「当たり前だろ? みんなメンドーなことに巻き込まれたくないからさ」

「あはは。覚えとく」


 美心の為にしたことが、まさかクラスメイトの感情を動かすことになるなんて。

 僕は、先ほどの美心の表情を思い浮かべていた。

 

「でもさ、どうして鈴奈ばかりにかまうの? 全然相手してもらえねぇし、庇っても黙ってるし」


 賢ちゃんは体を反転させ、窓枠に手をかけ、外の景色を眺めた。

 雲は流れ、賢ちゃんの体に影を被せてくる。

 

「目立たないし、誰とも話さない。それに、愛想がいいわけでもない。おまえは転校生だから、まるっきり接点がないんじゃない?」


 傍から見た美心のイメージはきっとみな同じ。

 少し距離を置きたいタイプに見えるかもしれない。

 

 僕も外の方へ向いた。

 口に含んだジュースは、今日までの思い出のようにほろ苦かった。

 いまのままじゃ、きっと明日も同じ味がするだろう。

 

「実は、昔から縁があってね。お礼も兼ねて力になってあげたいなぁ〜なんて」

「マジ? おまえたち、知り合いだったのかよ」 

「でも、それは秘密ね」


 美心にバレたら、僕は同じ景色が見れなくなる。

 それを守らなければ、彼女の隣にいられなくなるから。

 

 僕には大きな目的がある。

 それは、彼女の笑顔を生み出して、いつかたくさんの光を浴びること。

 

 もちろん、達成させるのは簡単じゃない。

 残された時間を、彼女の笑顔の為だけに燃やすつもりだ。

 

 無駄な時間なんて一秒もない。

 これが、一生に一度きりの輝きだから。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ