lesson5
「やぁ、君がエリオットくんか!エリ坊、だっけ?俺はグロッド・マリンレーヴェンだ。よろしくな!」
「まぁ、可愛らしい方! ごきげんよう、私はディラ・マリンレーヴェンです。よろしくね」
高貴なオーラをふんだんに振りまき、輝くばかりの美貌を持つ御二方……。
彼等は、この国の王太子グロッドと、その王太子妃ディラであった。
式典で物凄く遠くからしか見た事の無かった王太子夫妻に、エリオットは完全に思考停止する。
「やーん、ディラちゃん今日も可愛いわね! 待ってたわよ~!」
「おいおい、俺の事は無視かよ」
「ふふっ、グロッドの事だってちゃんと歓迎して下さってるわよ」
「まぁ、ついでに、仕方なくね!」
話に聴いていた通り、フィリップスと王太子は本当に仲が良い様だ。
でもなんでここに? エリオットが頭に疑問を浮かべていると、ばっちり王太子妃様と眼が合う。
彼女は優しく微笑みながら、マリンブルーの髪を揺らしてエリオットに近付いてきた。
(わ~、本当に瞳が金色だぁ。凄いな~)
エリオットは緊張を通り越して、やや現実逃避をしながら王太子妃を眺める。
人は綺麗すぎる人を見ると、惚れるとか通り越して崇拝の域に達するのだと、エリオットは思った。
「そんなに緊張なさらないで? 私達、今日はエリオットさんに会いに来たの」
「はぇぇ?」
意味が分からなさ過ぎて、王太子妃様に向かって変な声を出してしまう。
まずい、処刑かな。
だが、王太子妃はくすりと笑って、顔を寄せてくる。
まずい、近すぎる、なんか良い香りする。
「ディラ、近い」
エリオットが焦りまくっていると、嫉妬心を露わにした王太子が、彼女の肩を持って自分の胸に収めた。
「あらごめんなさい、イスラさんに聞かれるといけないと思って」
「イスラちゃんならとっくに案内を終えて出て行ったわよ、取り敢えずソファにどうぞ」
どうやら王太子妃はエリオットに耳打ちしようとしていたらしい。
止めてくれて良かった、殺されるところだった。
王太子は当然の様に妻を膝の上にのせて、ソファに腰掛ける。
エリオットは、妻を眺めながら余りにも甘い雰囲気を醸す王太子の色気に酔いそうになった。
「エリ坊もアタシの横に座んなさい」
「えっ! いえいえいえいえ無理で……」
「座る!」
「は~い!」
エリオットは、フィリップスの一喝に、俊敏に示されている場所に座った。
「ははっ! 本当に弟子なんだなぁ! こんなに良い子なんだから、もうちょっと優しくしてやれよ」
「充分すぎる程優しいわよ? ね、エリ坊」
「はいっ! 怖いけど優しいです!」
「一言余計なのよ、このあんぽんたん!」
フィリップス必殺肩パンが炸裂する。
痛がって呻くエリオットを見て、王太子は笑い、妃は心配そうに口に手を当てていた。
「じゃあ早速、対イスラちゃん向けの会話練習をするわよ」
「なんですかそれ?」
「私達、今日はこの為に来たのよ。フィリップス様とエリオットさんの会話を見て、指摘して欲しいんですって」
そんな事の為に王族をわざわざ呼んだのか、この筋肉は。
エリオットはあまりの恐れ多さにガクガク震え、フィリップスに問い掛ける。
「な、なんで王族の方を……⁉ うちの両親とかでもよくないですか⁉」
「だってアンタ、イスラちゃんの前だと今と同じくらい緊張してるじゃない。空気に慣れる為に良いと思ったのよ」
「おぉ? 好きな子の前では堂々としてた方がいいぞ! 礼儀とか気にしないから、存分に練習しよう!」
王太子は快活に笑うが、エリオットは礼儀とか全然気にする。
だが、来てもらった以上、やらない方が失礼な気がする。
「すみませんすみません、よろしくお願い致します!」
勢いよく頭を下げたエリオットは、ゴン! っと眼の前のテーブルに頭をぶつけた。
「まぁ、大丈夫?」
「だい、大丈夫です!」
心配してくれる王太子妃は本当に優しい。
「そう? イスラさんの事だけど、私いつも接客して貰っているから、ある程度彼女の性格は把握しているのよ。イスラさんに伝わらなさそうな返しには、修正を入れるわね」
「俺は男らしい話し方を教えろって頼まれたんだが……。やってみないと分からないしな、取り敢えず会話してみてくれ」




