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「アンタ、イスラちゃんの事好きでしょ」
ドレスショップのショーウィンドウ越しに見える、ミルクティー色のセミロングを揺らしながら、ハシバミ色の瞳を輝かせて仕事に勤しむ憧れの彼女を、にやついた顔で眺めていたエリオット・ミルは、突然背後から野太い声の主に、そう話し掛けられた。
突然すぎるドストレートな、しかも真実を言われ、エリオットはびっくりしすぎてその場でジャンプする。
「ぎゃあ! 突然なんですか⁉ って、うわぁぁ!!」
声の主を振り返り、その姿を視界に収めたエリオットは、更にもう一回ジャンプする。
「人の事見て叫ぶなんて、失礼ね! ここはアタシの店なの。店の前でこうも毎日へばりつかれてたら迷惑なのよ!」
口調こそ女性そのものだが、眼の前に居るのはそれは高い身長に、逞しい筋肉でボディをコーティングした男性だ。
だが、彼は普通の男性とは違い、綺麗な金髪をカールさせ、見る者を圧倒させる化粧を顔に施し、紫色のマーメイドドレスに身を包んでいる。
いかつい肉体に、不思議とその装いは馴染んでいた。
「店長さん⁉ これは失礼しました!!」
エリオットはそのままダッシュで逃げようとした。
「ぐぇぇ!!」
しかし、襟首を掴まれ持ち上げられてそれは阻止された。
店長は持ち上げたエリオットを上から下まで眺める。
ノースリーブから覗く上腕二頭筋が見事な盛り上がりを見せている。
「ふーん、元は悪くないじゃない。アンタ、名前は?」
「ぐぇ?」
「だから、名前!」
ぱっと手を離されて、盛大に尻もちをついて地面に転がったエリオットは、店長の巨体を見上げて名乗る。
「エ、エリオット・ミルです、坂の上にある花屋の息子です、19歳です!」
逃げるかと思いきや、しっかりと名乗ったエリオットに満足そうに店長は笑った。
「だったらエリ坊ね、アタシはフィリップス・ヴェルナー。今日からアンタを立派な紳士にしてあげるわ、覚悟なさい!」
「エ、エリ坊? それに紳士にするって……?」
呆けて座り込んだままでいるエリオットを、フィリップスはぶんっと音を立てて立ち上がらせる。
「ぐぇっ!」
「情けない声上げないで! アンタ、イスラちゃんが好きなんでしょ? このままじゃ、見向きもされないから、アタシが鍛えてあげるって言ってんの!」
「えぇ⁉ いえ、いえいえいえいえいえ大丈夫で……」
断ろうとするエリオットの顔を、迫力満点のフィリップスが覗き込む。
「まさか断るとかないわよね?」
むちっとした胸筋が迫って来て、エリオットは叫んだ。
「是非よろしくお願いしま~す!!」




