同期のコラボは不穏アリ
『件名:コラボに関しまして』
マネージャーから一通のメールが届いた。
内容を要約すると、要は同期でのコラボ配信を行って欲しいという旨のものだった。
自分のことで手一杯だったあたしだが、そりゃ当たり前のように5期生はあたし以外にもいる。
合法ロリ、あたしことレイナ・アルミス。
自称オタクのギャル、サーヤ。
男の娘系アイドル、リン。
初配信だけは一応サラッと視聴した。
なんでロリとギャルと男の娘を同期で出すんだよ。普通は多少なりとも属性を同じにするもんだろがよ……。
「そんでもってコラボして欲しいのはサーヤのほうか……」
あたしが今落ち着いていられるのは、コラボ形式が危惧していたオフコラボではなく通話のみでオッケーなものだったからだ。
もしオフコラボだったら今頃あたしは発狂して母親に家を追い出されている。
「多分通話形式なら問題はない……と思う」
根本的にあたしは人と目を合わせることができない。
ぶっちゃけ母親にすら目を合わせることが憚れるほどに中々重症なのである。
こうなった理由は正直思い出したくないトラウマが眠っているので、触れない方があたしの精神安定上良いものとする。
「サーヤねぇ……あたしがこの世で嫌いやつランキング第二位のファッションオタクなんだよな」
ギャルによくある「自称オタク」。
あれは往々にして真のオタクを舐めている。
サーヤは初配信では自分はオタクです、ということをサラッと触れただけであり、特段そのエピソードを深掘りすることは一切無かった。
普通は自分の好きなものについて熱く語るのがオタクというものだが、彼女は当たり障りのないことしか語らず、オタクについてお茶を濁した。
この時点であたしの中で疑念が浮かび上がる。
運営貴様、まさかオタクに優しいギャルを演出したいという理由だけでサーヤにオタク属性を付与したわけじゃあるまいな、と。
某海賊漫画を10巻ほど読んでオタクを自称するタイプじゃあるまいな、と!!
オタクと言っても何が好きかによって種類は変わる。
ギャルならまあギャルらしくネイル関係がめっちゃ好き……的な感じならまだ許せたが、そういった事も一切触れずに初配信が終わったのだ。
「今んところ一切サーヤの魅力が伝わってこねぇんだが……何かあったんかね?」
これはあたしだけが思ったことじゃない。
現に初配信を視聴したリスナーからは不評であり、5期生の中で尤も登録者が低い現状にある。
「……あ? 運営のやつ、あたしとコラボすることでテコ入れしようって算段か?」
こう言ってはなんだが、あたしは現状5期生の中でトップレベルに登録者が多いし、注目度も段違いだ。
そんなあたしとコラボすることによって、サーヤの悪い現状を打破しようと画策している可能性が高い。
「なんか使われてるようで癪だけど……お給料のために断るという選択肢は当然ありません、ハイ」
別にサーヤの評判が下がろうが、あたしの評判が下がるわけでもない。
クズみたいな思考……まあ、あたしは実際クズだが、ある程度ドライな思考が身につかねぇとこの先やってられん。
仲良しこよしで人気が出るなら最初からそうしてるしな。
「少し気になることはあるけど……一先ずは様子見ってとこかねぇ……」
ま、折角の同期だし、少しは気にしてやらんこともない。
☆☆☆
Side???
失敗した失敗した失敗した。
折角一歩を踏み出せたと思ったのに、肝心の一歩目で大失敗を犯してしまった。
『好きなことを熱く語る。熱量でリスナーを楽しませたい』
私が面接で言った言葉は、私自身によって何一つ有言実行できないまま初配信を終えてしまった。
マネージャーからもどういうことだ、と叱責を受けた。
当たり前だ。
人気商売のVTuberというものは、始まりの一歩目が大事だ。
どんなことでも第一印象が大切だろう。
その後の活動で好印象に戻すことは可能でも、可能な限り最初から印象が良いに決まっている。
VTuberというある種本当の自分を晒せる場所において、私は本当の自分をひた隠してしまった。たくさんの期待を裏切ってしまった。
「いっぱい話したかった。好きなもの語る熱量なら誰にも負けない自信があった」
なのに……ぜんぜん言葉が出なかった。
私の口は、まるでギャグボールを装着されたかのように一切言葉を発することができなかった。
趣味のこと以外ならギリギリ話すことはできて、当たり障りのないことしか言えずに配信は終わった。
──否定された過去が蘇る。
罵られて、嫌悪されて、裏切られて、ひどく糾弾された──それはちょっと気持ち良かったけど──趣味を著しく否定されることがトラウマになった。
そんな自分を変えるために。そんな自分を受け入れてくれる場所を見つけるためにVTuberになったのに。
『件名:コラボに関しまして』
それが不甲斐ない私への救済だということは理解していた。
これが最後のチャンスかもしれなかった。
「私は……」
変われるのかな。




