5期生に問う! 100の質問コラボ!! #職権乱用
歌の講師、クロエこと七色光のアバターは見てくれだけは清楚に見える。
彼女は歌姫──人魚をオマージュしたような姿なのだ。
真っ赤なハーフアップの髪に黄金に輝くティアラが載せられており、綺麗というよりは少しのあどけなさが残ったような美少女。
服装は水色のドレス……あー、あの竜宮城の乙姫が着てそうなヤツ? に、周りには幻想的なキラキラした水滴みたいなのが浮いている。
勿論あたしとは違ってダイナマイトっぱいが標準装備されていて、世の儚さを感じるね。死ね。
っつーわけで、そんな容姿のアバターが今現在、あたしのPCに表示されている。
……なんかクロエとしての姿の方が見慣れてっから若干新鮮味を感じるな。ある意味で職業病みたいなもんか。
VTuberなら誰しもそうなるに違いない。
「準備はよろしいですかぁ? ん~~、にしてもレイナさんはリアルの姿とアバターが同じ特徴すぎて面白いですねぇ」
誰しも(例外は自分自身)。
くそったれが。なんでアバターの要望出せねぇんだよ……運営の性癖か? 話が通る前に完成されたイラストが届いた時点で何らかの陰謀は感じるがな。
「ハァ……余計なお世話だゴラ。こっちの準備はオーケー。つーか、マジでぶっつけで質問に答えるわけ? こういうのって事前にNGとか確認してやるもんじゃねーの?」
「答えたくない質問は答えなくて構いませんよぉ。ただし視聴者が何と思うのかは……知りませんがねぇ……うふふ」
「カスがよぉ……まァ、あたしもお前の立場になったら同じことするからノーコメントで」
リスナーを人質に、ライバーのベストポテンシャルを引き出すということは別に悪いことではない。
本気で答えられないような質問を無理強いすることは逆に冷めっからな。そこまで変な質問は飛び出してこねぇはずだ。
つまりは、ちょっと答えにくいけどリスナーが喜ぶような話題……まァ、エロ関係だったり? 浅い個人情報とかか? それくらいだったらVTuberになった時点であたしもバレる覚悟も開示する覚悟もできている。
本名バレとか前世バレとかはある種この業界での宿命みたいなもんだし。あたしに前世は無いけど。
いやモノホンの前世はあんだけどな?
あたしがTSしていることは墓の奥深くまで持っていくことを決めてるからな。そこは言わねーが。
いや言っても何言ってんだコイツ、って思われると思うけど。あたしも思う。
「うふふ、それでは開始しましょうか」
「おぅ、来いや」
七色が声音からして楽しそうな様子であたしに呼びかける。何をそんな楽しみにすることがあんだか。
とは言え、あたしも数字を獲得するチャンスに自ずと気合いが装填されていくのを感じる。
ぱちん、と己の頬を叩くと、丁度そのタイミングで配信が開始された。
☆☆☆
コメント
・うおおおおお始まった!
・こんレインボー
・こんレインボー
こんレインボーとは七色リスナーの挨拶である。
毎回クソだせぇとしか思わない。
ちなみに当たり前だが、今回の配信枠は七色のほうで取っている。流石にヤツが主体的に企画した配信を自枠でやるほどあたしも馬鹿ではない。
「こんレインボ〜。今宵もわたくしの配信が始まりました。まあ、2ヶ月振りの配信ですがね。しかもコラボという。うふふ」
コメント
・何がうふふだ何が
・推しの供給源が歌ってみたしか無いの勘弁してくれw
・歌ってみたで満たされる度に「あれ、VTuberとは……?」と脳内で宇宙猫が巻き起こる件www
・#配信しろ七色
・というか約1年半振りのコラボがレイナとはな……
「はい、今日はコラボです。ということで5期生のレイナさんに来ていただいてます〜」
あたしの番がやってきた。
ゴホン、と喉の調子を確認してミュートを外す。
「どうも、レイナ・アルミスだ。事務所と一期生の横暴で訳わからん企画に参加することになった」
「いやですね。ノリノリだったじゃないですかぁ」
「病院行ったほうが良いぞ」
コメント
・初対面かと思ったら仲良さそう……?
・七色って基本ツルまないイメージしか無いから意外だ……
・5期生まだ見れてないんだよなぁ
・レイナって誰? 生意気じゃない?
・※ヤツはクズです
・※新人がクズなら七色はもっとクズです
・クズとクズの化学反応……!?
散々な言われようである。
七色は割と信者がいるイメージだったけど、意外とクズ呼ばわりされる程度にはカスムーブしてんだな。……あぁ、BANと暴言か。そら言われるわ。
最近となっちゃ歌ってみた投稿botになっている七色だが、全盛期はゲーム配信や歌ってみた配信で大きく数字を伸ばした人間だ。
その人気の貯金は未だ計り知れない。
「うふふ、わたくしたちが仲良くして「仲良くないが???」……仲良くしてるのは理由があるんですよぉ」
「言い切りやがったコイツ」
コメント
・草
・七色……やっと友達ができたんだな……
・暴言が友達の七色に遂に春が!!
・歌ってみたからファンになったリスナーは配信で大抵絶望して推すか消えるかの二択を迫られるからな
・嫌な踏み絵すぎる
確かに七色って誰かと仲良いイメージ無いな。
かつてコラボしていた他の一期生は《《全員引退》》という類を見ない結末を見せているし。
つーかあたしとコイツは仲良くねぇ!!!
「実はですねぇ、わたくし最近レイナさんに歌の指導をしていましてねぇ。その兼ね合いでレイナさんとは仲良くさせてもらってるんですよぉ」
「暴言吐かれたけどな」
「デフォなのでぇ」
「ブレないなお前」
デフォでは無ぇだろうが、キレた時に飛び出す暴言はあたしをもってしても宇宙猫になるくらいにはキレッキレだ。
妙にムカつかないのは声が可愛いせいだろうか。あたしはプライドを傷つけられて激怒だけどな! いつかぜってぇに鼻を明かしてやるとは決めている。
コメント
・最近レイナが歌上手くなった原因ソレか!!
・七色光に指導されているライバー!? 見に行かなくちゃ……
・動きたくない、働きたくないって言ってる割にはちゃんと努力してるのポイントやわ
「誰かに明確に劣っているって自覚した場合しか努力しねーからな、あたし。怠惰なのは間違いねーよ。努力は嫌いです」
「省エネで生きていけるならそれに越したことは無いんですけどねぇ。レイナさんのその凝り固まったプライドじゃ省エネとは縁がなさそうですわね」
「お前に言われたかねーわ」
「確かに〜、うふふ」
コメント
・確かに〜、じゃねーよ
・お互いに貶し合ってるの草
・朗らかな雰囲気で喧嘩してるの草
さて、前座はここまでにしてそろそろ質問コーナーに移ったほうが良いんじゃねーのかね、と思ったあたしが話を打ち切ろうとすると、同じタイミングで配信画面が質問用のスライドに変わった。
……まぁ、流石はベテランか。
空気感だったり時間配分には余念がねぇわけだ。
「さて、それでは本題の質問コーナーに参りましょう。レイナさん、準備は良いですかぁ?」
「おう、どんな質問でも掛かってこいや」
「はいそれでは最初の質問ですぅ──
──アナタのスリーサイズは?」
「初っ端から飛ばし過ぎじゃボケぇぇえ!!!」
あたしはおっさんみたいな質問を飛ばしてきた七色に、全力のツッコミを浴びせるのであった。




