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あたしの歌を聴け

Side 七色光


 強く言い過ぎましたかねぇ〜……。

 とはいえレッスン生が逃げることなんて慣れてますし、運営からは好きにやっちゃって良いよと言われてますし……。


 【ばーちかる】としては、わたくしに歌唱で並ぶ人間がいれば重畳。最悪いなくても、わたくし一人で何とかなると思っているのでしょう。

 ですから、【ばーちかる】の採用試験に合格する基準に実のところ歌唱力は評価外なんですよねぇ。


 これもわたくしが天才すぎる所以ですかねぇ。

 ああいえ、自惚れではなく客観的評価ですが。


「歌に妥協するなんて、論外」


 キツく言ってしまっている、という自覚はわたくしにだってあります。キレると言葉が……うふふ、少々はしたなくなってしまいますからね。


 ですがその程度で辞めてしまうのであれば、わたくしを超えることなんてどのみち不可能です。

 上手くなるためにレッスンを受けに来たのでしょう? 現にわたくしは特に意地悪することもなく、全力を尽くして教えています。


 わたくしの教えを上手く活かせているのであれば褒めることだってしています。ずっと口汚く罵っているわけではありませんことよ?

 

「う〜ん、流石にレイナさんに対してはやりすぎましたかねぇ。一回目ですし、注意して直らなかったら……という風にしておいたほうが良かったでしょうか」


 けれど……レイナさんはあまりに傲慢過ぎた。

 早めにテコ入れしないと軌道修正することは不可能と言わざるを得ないほどに、レイナさんは全てのベクトルが己に向いていました。

  

 VTuberという職業上、何らかの想いを伝えることはすべからく必要となってきます。歌だけではなく配信でも。

 レイナさんは今のところキャラの強さと会話のテンポの良さで順調に数字を伸ばしてはいますが、誰かに何かを伝えたい──強烈な感情の伝播を引き起こさない限り、伸び悩んでしまうでしょう。


 余計なお世話ですかねぇ〜?

 まぁ、わたくしの同期はそれができなくて辞めてしまいましたからねぇ。重ねるのも無理はないと言いますか。


「これで辞めるのであれば、その程度。付いてこれない人間に、時間を割くほどわたくしも暇ではありませんから」


 内心では諦めています。

 これまで付いてきた人間はいないから。


 レイナさんも最初は怠惰でやる気のない……常にヤサグレている人間かと思い、そこまで興味は湧きませんでした。


 現に彼女は確かに無気力で怠惰でヤサグレている。

 けれど人一倍負けず嫌いで、勝つためには努力することを厭わないくらいに矛盾した存在です。


 そんな姿勢がわたくしは好ましいと思いました。

 わたくしの歌を聞いても諦めずに……むしろ闘志を燃やし、敵愾心の屈辱の中でわたくしから全てを学び取ってみせるという姿勢。


 なんと素晴らしきことでしょうか。

 この向上心こそが【ばーちかる】にとって必要な人材。


 ええ、そうです。

 わたくしはレイナさんを買っています。


 だからこそ──彼女の全力の歌を聴いた時に失望してしまったのです。……いえ、予想できたところではあるんですがねぇ。


 レイナさんは想像以上にプライドと自己愛性が凝り固まっていて、歌にとって一番重要な"想い"を彼女からは一切感じなかった。


 ただ《《巧い》》だけの歌は何も響きません。

 ……あぁ、ちなみにボーカロイドは別枠ですよ。


「ふぅ……想いは大切ですよ、レイナさん。けれど、他人にベクトルを向けた場合、ある意味武器として活躍していた傲慢さは消えてしまう……ジレンマですわね」


 ため息を吐く。

 スマホのカレンダーを眺めると、明日の予定には『レイナさんとのレッスン』と書かれていた。


 わたくしは諦観を滲ませながらその予定を消去しようとした──その時だった。

 ピロンと、スマホから音が鳴りました。


「──うふふふふ……やっぱり好きですよぉ……」


────

レイナ:ぜってぇに認めさせてやるからよ。明日のレッスン逃げるんじゃねぇぞ!! あたしの歌をもう一回聴きやがれ!!

クロエ:楽しみにしていますよぉ

────


「さあ、見せてくださいわたくしに。アナタの底力ってヤツを」

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― 新着の感想 ―
運営は光に並び立つVが欲しい 光はレッスン料を稼ぎつつ、暇潰しをしたい 光が自身を明かさず教えるのは、ファン心でやられても困るからだろうね 「止めた」元同期がが転籍して違う箱で違う形で成功してたら…
運営が諸悪かこれ
やっぱり教えるのに向いてねぇ
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