性癖コラボ配信!? #サーヤ覚醒の儀
「まあ、こうなるわな」
あたしはコラボの公式発表後に寄せられたリスナーの意見を眺めながら冷めた意見をぶつける。
そこには『サーヤマジでいらん』『なんでデビューさせた?』『今ノッてるレイナとコラボさせる意味が分からない』──などなど、否定的な意見が多数見られた。
ま、予想通りだろ。
片やレイナ・アルミスとしてのアイデンティティを確立させ、登録者も配信する度にうなぎ登りのあたし。
片や一切ライバーとしての強みを出すこともなく、ただただ漫然と過ごしている良く分からないサーヤ。
そんな二人がコラボする意味が分からないとリスナーが憤るのも当然の話。
「んな下馬評、叩き潰してやろうぜ。《《なァ?》》」
あたしは通話越しにサーヤに語りかけた。
すると、艶のある返事が返ってくる。
「SNSのアンチの罵詈雑言も……悪くないかも」
「てめぇに聞いたあたしがバカだったわ。帰れ」
「んふっ」
……っ!! なんかめっちゃゾワッとした。
あぁ、クソ……ドMとかいう自我を確立させてから、アホみてぇに面倒臭い性格になってやがる……いや、こっちが素か……。
「レイナちゃん。私、好き勝手しても良いんだよね?」
「……チッ、ケツは拭いてやるからキリキリ存在感出してけ。今夜の主役はあたしじゃなくてお前だ」
あたしは苦虫を噛み潰したような表情で言う。
残念ながら性癖を開示し、好き勝手放題をするサーヤから主役の座を奪い取るのは非常に難しい。
天下を取るため。今は耐え忍ぶ時だ。
だが、ただではやられねぇぞ……。
ここで恩を売って後々きっちり数字で返してもらうからな……くくく……。
内心黒い笑みを発していたあたしは、時計を見るとコラボの始まる時間が近いことが分かった。
「っし、行くぞカス」
「うんっ!!」
明らかに罵倒に返事をしたバカをスルーして、あたしはポチッと配信を始めた。
☆☆☆
コメント
・レイナとサーヤのコラボかぁ……
・クズと無味のコラボとはなかなかに
・レイナが何とか盛り上げることができるかどうかだな
・ガワでサーヤのファンになったワイとしてはここで何とかして欲しいところ
・お、はじまた
・きちゃ!!
配信画面にまずはあたしのアバターが映る。
腰まである艶かな金髪に、全体的なダボッとした服装。
そこから少しだけ、ほんの少しだけ胸元が覗いているのはイラストレーターのフェチズムか。
表情はダウナーというか面倒そうな感じ。
自画自賛とかではなくまんまリアルのあたしだな。
続いてあたしの横にサーヤのアバターが映った。
制服を着崩した黒髪ロングのギャルだ。
どちらかというとケバケバしい雰囲気はなく、童貞が好きそうな清楚ギャルって感じだな。
胸元はガバ開けで、あたしが恵まれなかった夢がそこにはいっぱい詰まっている。
クソ……なんか殺意湧いてきたな……。
「あい、レイナ・アルミスです」
コメント
・レイナたんキタコレ!!
・ペロペロ
・っぱロリなんだよな
・死んだ魚の目がたまらん
「あたしに劣情を催したキショいヤツはまとめて死んでください。何も壊せないあたしの鉄拳が火を吹くぞ」
コメント
・誰も処せねーじゃねぇかw
・多分もっと喜ぶと思うぞw
・い つ も の
さてさて、内輪ノリはこんなもんか。
あ、ちなみに今回はあたしの配信にサーヤがお邪魔する、という形になっている。
本来なら主役のサーヤ側で配信を行う手筈だったが、謎に運営があたしにテコ入れさせたことの謝罪の意なのか、急遽こっちで配信を行うことになった。
確かにコレはあたしにとってはアドだ。
なにせ大体は面白い事柄があれば、その配信枠の主をチャンネル登録するからな。
だが、VTuberという文化においては、コラボ相手もチャンネル登録をする……ってのもあるらしいし、サーヤの登録者も爆増するに違いない。
「っしゃ、今回はな。あたしの初コラボだ。記念すべき初コラボに呼んだのは──!!
──今んとこ大して何も活躍できてねぇ同期のサーヤだ!!!」
コメント
・ブフォッwww
・言うのかよ!!!!w
・草
・エグいキラーパスで草
・レイナも無理にコラボさせられてキレてるのか?
・あり得る
《《打ち合わせ通り》》、あたしはサーヤに向かってデッドボール並みのキラーパスを送る。
アイツ曰く、公衆の面前で罵倒されることでやる気が出るんだとよ。知らねぇよ。
「皆さんこんにちは。今のところ何も成せず、何も残してない5期生の恥さらし、サーヤです!」
コメント
・乗るんかい!!w
・すっげぇキラキラした瞳
・嘘がつけない薬でも運営に飲まされた??
・草
「というわけでな、サーヤが来てくれた。どうだ、最近の調子は? 配信生活は上手くいってるか?」
「いつも虚無配信してる私にそれ聞くの??」
「そういやそうだわ」
……あたしが罵倒する度に背中がゾワゾワするのは仕様なのか?? 嫌な予感がしてならねーんだけど。
コメント
・今日のサーヤ違いすぎるなw
・まあ、台本があればこうなるやろ
・言わされてる感すごい
コメントは驚愕と疑念、と言ったところか。
人が変わったようにノリノリであたしに言葉を返すサーヤを、台本か何かだと思っている人はそう少なくない。
だからこそ、下馬評を覆す時が来たんだぜ。
「さて、今日はタイトルにもある通り、性癖を語る配信をしていきたいと思う。言っておくが発案者はあたしじゃねぇ。間違ってもあたしはこんな配信しねぇ。いや、マジで」
「私が無理を言って頼んだんだ。レイナちゃんと性癖語りたい! って。レイナちゃん優しいから渋々受けてくれたよ……冷たい声でさ……んふっ」
「漏れてる漏れてる」
コメント
・お???
・ん……??
・なんか旗色変わってきたな
・性癖語りなんておもしれーじゃん、流石レイナや! って思ったらサーヤお前なのか……
・性癖……冷たい声……喜び……うっ、頭が!
あたしが脳死でサーヤにツッコミを入れる中、どうやらリスナーの中に勘付いてきたヤツが現れ始めた。
だが、まさかあの虚無配信常連者のサーヤが……みたいなストッパーが掛かってるみてぇだな。
……んー、にしてもどうやって性癖語るんだ?
ココら辺の詳細はサーヤに一任してっから、別に打ち合わせとかもしてねーんだよな。
サーヤがドMを開示して語るだけでも、まあ十分に面白いとは思うがパンチラインとしては少し弱めか。
なんてことを思っていると、まさにタイミング良くサーヤがあたしにとって寝耳に水なことを言い始めた。
「今回の性癖語りはカードゲームのデュエル方式でいきます。各種性癖をモンスター、マジックカード、トラップカードに適当に割り振って、適当にパンチの強いことを言ったヤツが勝ちです」
「ふんわりしすぎだろ。主観じゃねーか」
コメント
・草ァ!!
・性癖デュエル……ってコト!?
・適当に割り振って適当にパンチの強いこと(?)
・ルール無用の殴り合いだァ!!
いやいや流石に多少のルールの制定は必要だろ……と言おうとしたその時、通話越しにやけにわざとらしく挑発する声音が耳朶を打つ。
「レイナちゃん、まさかできないの??」
「──は? できるが?? あたしにできないことなんて人と目を合わせることくらいしか無いが?」
コメント
・あちゃー……煽り耐性の低さが裏目に……
・これは良い挑発
・できないことがコミュ障なんだよなぁ……
……ハッ!! ついつい挑発に乗っちまった!
くっそ、配信者としての性で挑発には乗るべし、って魂に刻まれてんだよ……。
まあ、良い。
架空デュエルなら前世でやったことある。
性癖デュエルだぁ?
このあたしに向かって"勝負"という土台を作り上げるだなんて良い度胸じゃねーか。
主役の座は譲るとは言ったが、こうなれば別。
思いっ切り目立って、てめぇが稼ぐ分の数字を全てあたしが奪い取ってやる。
「いざ!!」
「「デュエルスタート!!!」」
コメント
・今北産業
・恥さらしサーヤ覚醒
ドM疑惑
性癖デュエル開始
・何が起きてるんだってばよ……
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次回!! 性癖デュエル!!




