6. 脱出
行為のあとは気持ちの昂りは少し落ち着いて、とても満たされた気持ちになった。カイがずっと抱き寄せてくれているからかもしれない。尻尾でほっぺを撫でてくれる。
お互い眠れないので、今までの話をした。両親に憧れてずっと番を探してたこと、やっと見つけた番のカイに運命の番はばかばかしいと言われてショックだったこと、そこから抑発情剤を飲むようになったこと、そしたら嗅覚がなくなり食事も楽しくなくなってしまったこと――体重が十キロ以上減った話はしなかった。すれば、彼が心底悲しむと思ったから。
「すまなかった、ミルカ。ここを脱出したら、おいしいものをたくさん食べに行こうな。」
「うん」
「ミルカが俺の番でよかった。本当に。」
そうだ。カイはいつも私のことを心配してくれた。食事をしっかりとるように昼食に誘ってくれたし、犬獣人なのに鼻が利かないことも気づいてくれた。それに彼と昼食の時にする話はどれも楽しかった。もし私が人間で彼とは番じゃなかったとしても、いつか好きになっていたと思う。
「私もそう思う、カイ」
お互い抱きしめ合って、その熱を共有した。結局一睡もできなかった。
ふと、奥の方の壁から光がこぼれた。この地下層に朝日が差し込んだのか?
「ねえ、カイ。あそこの壁、光が漏れている。外と通じているのかしら?」
この遺跡は谷に沿って作られている。もしかするとあそこから外に出れるかも。
「行ってみるか。」
荷物をまとめて、光が差し込む壁の方へと向かう。光がこぼれている穴に目を当てる。小川が見えた。こういう古代遺跡の仕掛けはもとある地形を生かしたものが多い。どうやらここは谷底に開けられた横穴のようだ。そういうことなら……。
「カイ、少し避けていて。ディスラプション!」
穴がぱっくりと開いて、無事に外に脱出することができた。
「ああ、よかった。脱出できて。」
この辺の地形は事前調査で頭に入っている。そのまま、小川にそって下ればメッツァの集落のはずだ。
「ねえ?手をつないでいこうよ。せっかくだから。」
そういって、カイが手を出してきた。
「もうカイ、任務中!」
「じゃあ、上官命令。」
しょうがないな。リクエスト通りの恋人つなぎで川のほとりを歩き初めた。この小川は穏やかな川みたいで、川辺も歩きやすかった。早朝らしく小鳥たちのさえずる声がした。