3. メッツァ古代遺跡群
それからカイの宣言通り、昼食をともにするようになった。彼は隣国に留学していたというだけあって博識だ。現代魔術理論と古代魔法文明に関する議論はよく話が盛り上がった。
一通りの事前調査が進み、メッツァ古代遺跡群を一つ一つ攻略していくことになった。こういった遺跡群は現代で失われた魔術の宝庫だ。研究にも直接応用できそう。
今回の出張は一週間、遺跡にほど近いメッツァの集落に宿をとる。
「あら、王都からはるばるどうも。予約のあった王宮魔導士さんたちだね。部屋は二部屋でよいかしら?」
「はい」
「あと食事は朝食だけでよかったかしら?」
「はい」
夕飯までに戻れるか分からないし、外食する予定だから問題なかった。
初日は一番小さい遺跡から攻める。古代王妃の墓所だ。すぐに最深部まで到達した。棺を囲むように、金銀財宝がうずたかく積まれている。
「うわあ、キレイ!」
思わず声をあげた。まばゆいばかりの財宝の中、ひときわ目を引いたのは、大きな赤い宝玉を囲むように金の花弁があしらわれたペンダントだった。たしか、古代文明では自分の瞳の色と同じ石をあしらったペンダントを、結婚の申し込みとして相手に贈る風習があったはず。これはきっと、王が王妃に贈った、愛の証なのだろう。
「おい、不用意に触るなよ。呪いがかけられているかもしれん。」
「言われなくてもわかっています。」
内部の記録をとりながら、呪術がかかっていそうな宝具を呪術プロテクターのついたケースに放り込む。すぐにいっぱいになってしまった。今日のところはこれくらいにしとくか。
「戻るぞ。」
「は、はい。」
二人で部屋を出た時だった。
ごおおおおおおおおおおおおおおおおおお
世界が割れたかと思うほどの轟音が耳に響く。
「きゃあ。」
罠だ。往路で全ての罠を封じたはずだったのに。だから油断していた。部屋を出た直後に作動する仕掛けがまだ残っていたのか。床が抜けてそのまま落下する。
「ブラスト」
カイが落ちていく先に向けて風魔法を発射する。ふわっと押し返されて自然落下が減速した。我々は緩やかに地面に着地した。
「一旦落ち着こう。あの魔法は単純に床を崩落させただけだ。私たちは、亜空間に飛ばされたわけではない。」
天井を見上げると、大穴が開いている。私たちがさっきまでいたのはあそこか。だいぶ落ちてきてしまったな。
「先ほどのように風魔法を連続で発射すれば上まで登れるでしょうか?」
「それでは効率が悪いし、危険も伴う。もう少しいい方法を考えよう。」
それから二人で周辺の調査をした。少し先に行くと、いくつものしゃれこうべが転がっていた。最深部にたどり着く前のどこかのトラップにハマり、この階層に落下した盗賊かなにかの躯だろう。カイは意外と信心深いのか、しゃれこうべたちに女神の祈りを捧げていた。
「おそらくだが、この王妃墓を作った者たちは、この階層におちた人間が生存していることを想定していない。」
「そうですね。」
「つまり、この地下層を作った時に使用した階段がまだ残っているんじゃないか?」
「ここは小さい遺跡ですし隈なく探せば痕跡が見つかる可能性はありますね。」
「ああ。」
その後何時間も捜索したけど、見つからない。やっぱり落ちてきた穴から風魔法で出るしかないのか。
「今日はもう遅いから、ここで野宿しよう。」
「ええ!?」
一応、こういうことも想定して、数日くらい閉じ込められても大丈夫なように食料や毛布は持ってきている。水は水魔法で空間中の水蒸気を水に替えることができる。
――唯一最大の問題はこの人と一緒に野宿をするということだろうか?