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イボリアス⑤


「どうして、こちらに?」


「ごめん。世間話をしに来たんじゃないんだ」


 最後に見た時よりも背が伸びていた。

 まだ線は細いが、ちゃんと肉がついていた。

 鍛えた身体に変貌していた。


 それでも、見間違えようがない。


 容姿だけならジブンと肩を並べるレベルになると忌々しく思っていたせいで、記憶に残ってしまってたからだ。


 典型的な、貴族の家のバカ息子だった。


 アリス王国の大貴族、グラッパレット・トライハント伯爵の末子──ライデリッヒ・トライハント。


 彼の父親の名声はアリスにおいて絶大だ。


 軍人としての高い力量、王家への厚い忠義、私費を投じて創設した戦車隊の活躍等々。


 だがそれはあくまで外面(そとづら)

 トライハント伯爵という男の、日の当たる一面でしかない。


 あるのだ。非難されて(しか)るべき、暗い影が落ちる一面が。


 これは戦車隊の騎士長として、間近で伯爵を見てきたジブンにしか分からないことだ。


 まず思いつきで遠征を決めてしまう。戦車隊を動かせばどれだけの数の人間が時間を、生活を犠牲にするのか、そんなことは考えもしない。


 更には家族を顧みず、遠征先に女をつくりまくった。認知してない婚外子もあちこちで見た。ジブンも女性関係では他人(ひと)のことをとやかく言えた義理ではないが、少なくとも節操なく子供をつくるような真似はしていない。


 (ないがし)ろにされた家族はエコチェンを発症し、末子であるライデリッヒを溺愛(できあい)するようになった。


 人格形成もまだ未熟な幼子に、過剰な愛などハッキリ毒でしかない。ライデリッヒが自分のことを何もかも許された特別な存在だと勘違いするようになるまで、そこまで年月はかからなかった。


 領内で暴れまわり、逆らえない領民たちへ無理難題を押しつけ高笑いする姿は、まさに躾のされていない子猿そのもの。

 こいつを野放しにしていたら早晩、伯爵家は没落を免れまい。


 そう思っていたら、手が打たれた。


 再教育という名目で、どこぞの家庭教師に身柄を預けられた。


 さすが、外面に影響してくるような事態となれば対応は早いのだなと感心した。


 ジブンは伯爵について好き嫌いの感情は持ち合わせていない。

 今回にしてもメジャーデビューという打算で動いた結果であり、後に禍根を残さないためにも伯爵は殺さず、緊縛したまま放置してきた。


「閣下は生きておられますよ」


「ああ、そうなんだ。まあ良かった。あの人にいなくなられると、多分この国がガタついちゃうからなあ」


 何とも言えない顔を勇者(・・)はした。


 耳を疑ったものだ。最初にそれを聞いた時は。


 ──神弓(しんきゅう)の勇者。


 あの子猿が、トライハントのバカ坊が、勇者認定されたというのだ。まさかにもほどってものがあろう。


 慎重に、腰に提げた小袋から高級傷薬(ハイポーション)を取り出して矢傷に垂らすと、瞬く間に傷が塞がり、痛みも消えた。


 勇者か。まあ、ガキに負けるジブンではない。

 ジブンは職能(クラス)騎士(ナイト)なのだ。


 戦士は所詮、身体能力補正に優れているだけの汎用的な前衛職でしかないが、騎士(ナイト)は違う。


 専用スキルを備えた明確な上位職。


 戦闘経験だってジブンは豊富だ。

 十代のガキとは厚みが違う。


 とはいえ……。


 不意に、巨体を揺すり傲慢に笑う、スキンヘッドの半裸野郎の姿が脳裡に浮かび上がった。


 王都ランスの冒険者ギルドを我が物顔で闊歩する神槌(しんつい)の勇者──。


 以前、アレに絡まれたことがあった。


 負けこそしなかったが、勝てもしなかった。

 途中で勇者のパーティメンバーが待ったをかけてきたからだ。


 その時、勇者とは根本的に「別枠」なのだと感じた。


 ただの工具でしかなかった小槌が、みるみる異様なカタチへと巨大化し、ヤツはそれを軽々と振りまわしてみせた。


 ヤツ自身、規格外の筋肉量を誇っていたが、それでも人が持てる重量には限度ってものがある。あの大槌は、誰が見ても人が持ち上げられるサイズではなかった。

 なのにヤツは、それを片手で振るってみせたのだ。


 身体補正とか、そういう類のものではなかった。


 暴風のような攻撃を大きく回避して、それでもファイティングポーズだけは取り続けた。

 周囲の損害に青くなったパーティメンバーが制止していなければおそらくジブンは……。


 ジブンの、シビカへの嫌悪の源泉だった。

 ブサイクなだけの、でかい筋肉ダルマ野郎は滅びればいいのだ。


 くっ。くっ。くっ。


 いかんな。柄にもなく思考が乱れた。


 そうじゃない。

 そうじゃあない。


 余計なリスクを負う必要はないという、ただそれだけのことなのだ。

 ジブンは方針を変えず、このまま合流地点へ向かうべきなのだ。


 そう決断し、注意深くライデリッヒの様子を(うかが)おうとして、そこで初めて勇者の後方に二人の女がいることに気づいた。



 馬に乗っていた。



 銀髪の三つ編み眼鏡メイド服女と、そして──



「は…………?」



 ──ティアージュ・ドラナークだと?














本作はノクターンノベルズにて連載中の、「ぼっち勇者のドーナツクエスト」

https://novel18.syosetu.com/n1164jk/

こちらの外伝的作品となっております。

イボリアスと揉めた、神槌の勇者も出てますよー。

叡智な諸々を読める皆様、よろしくお願いします。

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