イボリアス③
ジブンのキィーフにおけるメジャーデビューを信じ、戦車隊を足抜けしてくれた忠士が七人。
一人目、イッサ。
二人目、ダラワ。
三人目、タトロ。
四人目、アパト。
五人目、リーマ。
六人目、エイニム。
七人目、ピトー。
「知ってますよオレ、北のキィーフ王国は聖女の加護で魔物の発生率が少ない楽園だって」
イッサは楽天的な男だった。ジブンが誘った戦車隊の面々の中では、一番先に名乗りを上げてきたほどだ。
「故郷を離れるのは名残り惜しいですが、何事も命あっての物種と言いますからね。……穏やかな地で、いまよりも豊かな暮らしができるのであれば、この話、受けるに吝かではありません」
ダラワは最後まで二の足を踏んでいたが、集まった顔触れを見て決断してくれた。
「騎士長の参謀役ですか……。フム、それも悪くありませんね」
三顧の礼で迎えたタトロは戦えるだけでなく頭もキレる知性派だった。
「キィーフに行ってどうすんだよ。戦いが減るんじゃ、俺らは商売上がったりじゃね?」
四の五の文句をつけてきたアパトは高給を約束するとすぐに黙った。何、この手のヤツはキィーフに渡ってから改めて懐柔すればいい。
「ポロス殿やレイド殿なら分かりますが、私も必要なのですか? 閣下の戦車隊を離れるのは後ろ髪を引かれる思いではありますが、せっかくのお誘いですし、キィーフに渡ってみるのも悪くないかもしれませんな」
リーマは戦車隊でも五本の指に入る実力者だった。彼の加入によって、メジャーデビュー後の武による勢力争いでも後れを取る心配がなくなった。憂いが一つ減ったのは大きい。
「今更だな。おまえが決めた道ならつき合うさ」
エイニムはジブンと同郷の幼馴染だ。
朋友は六親に叶う──。生憎とジブンほどの才覚がなくて戦車隊の一般兵として埋もれてしまったが、ジブンが誰より信頼する無二の腹心だった。
「親が王国騎士だからって、同じモノを求められても無理があるんですよ」
ピトーは七光りを嘆く身の上だった。親がアリスの王国親衛隊の騎士で、物心ついた時から武術を仕込まれて育ったという。
一般的に、職能騎士に至る冒険者は稀少だ。そもそも戦士の才能があるだけでも幸運で、その上級職となれば更に数が絞られるのは自明の理。役職だけ騎士でその実体は戦士、なんてのはありふれた話だった。例に漏れずピトーも戦士止まりで、何度か挑んだものの騎士への転職を果たすことができず、やがて実家に居場所がなくなり戦車隊へ流れ着いた。
酒の席で、家は弟が継ぐことになるだろうと自嘲気味に笑っていたのをおぼえていた。よくある話だ。だから誘った。
リーマとタトロ、友人枠のエイニム以外は員数合わせの感は否めない。それでも戦車隊の上澄みであることは間違いなく、ジブンが選定した近い将来の家臣たちであった。
「さあ蹴散らせ。ド田舎の山賊どもに、格の違いを思い知らせてやるのだ!」
号令一下、皆が剣を抜き躍りかかっていく。
武装状態にあるこちらと、気が緩んで酒まで入っている状態の猿どもである。正直、戦いにすらなるまい。
ジブンは悠然とワンサイドゲームを眺めていればいい。
──は?
下層種の女が前に出てきた。剣を手にして。
その後方に、紛れにせよポロスを打ち破ったロサリグとかいう地味な剣士。
愚かな意趣返しだと勘違いした。
女を前に出し、やりづらくさせようという魂胆なのだと。
浅薄な猿芝居。いっそ憐れとすら思えた。
残念ながらオマエらの童貞男爵とジブンらとでは覚悟が違うと。そんな甘えなど容赦なく蹂躙してやるまでだと。
三方から囲んで確実に削ぎ殺すよう指示した。
なのにその女は瞬時に上体を沈めるや、猛烈な踏み込みで床を這い、正面のイッサめがけ脛斬りを放ったのだ。
「え」
女を見失ったイッサは間抜けな声を上げ、そのまま崩れ落ちた。
右の膝下から先を断ち斬られたら、それは立っていられない。悲鳴は遅れてエントランスホールに響きわたった。
一人やられた。
だが動揺は生じない。こちらに新兵はいない。
確かに見事な打ち込みではあったが、それは渾身の捨て身技だったからこそ。
いまや女は隙だらけの姿をさらしていた。
好機であると。仕留めるのだと指示した。
「させるかバカ」
女を討ちに走ったダラワとアパトがロサリグに斬り倒された。
「騎士長、あの二人はまずい!」
あれは違う。女を前に出しているのは捨て駒扱いなどではなく、自由に戦わせているだけなのだと。
大技の後に隙が生じようと後ろに控えたロサリグが即座に補うよう動く。そして女はその間に態勢を立て直してしまうのだと、血の気の引いた顔でタトロは撤退を進言してきた。
……撤退だと?
できるかバカ!




