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ケネシコア③


 天井桟敷(てんじょうさじき)って言葉がある。


 劇場における一番後ろの席、いわゆる「大向う」の下世話な言いかたと思ってもらって構わない。


 舞台からは遠いが、客席の反応すべてを見渡せるため、芝居好きの中にはそこを好む常連の物好きもいるらしい。


 ──例えばそう、あたしみたいな、ね。




「先を越されちゃったわね、お姫ちゃん」


 その日、あたしは交替した公女の従者が階下に降りて行く姿を見届けてからドアを閉めた。


 これで二人きり。


 かけられた言葉の意味が理解できないようで、公女は曖昧な愛想笑いを浮かべた。


 しかしそんな振る舞いすら可愛らしい。


 おそらくかつてはきっちり縦ロールにしていた金色の髪が、社交会から距離を置いた影響なのか、その名残(なごり)を感じられる程度のナチュラルロングへと変わっていた。

 貴族的で棘のある、冷たく厳しい印象を与える縦ロールがバラけるだけで、こうも見た目に違いが出るのかと驚くしかない。

 華美な装飾を抑えた普段使いのドレスを着ても尚、さながら夢見る少女の具現のような公女の存在感を打ち消すまでには至らなかったのだから、本当に全く、イラつく要素ばかりで呆れてしまう。


「この数日、楽しかったわ」


 終わりの挨拶をどうしようか、いろいろ考えてはいたが、結局のところは素直な感想が口から出た。


 注視すべき舞台の推移は視界の中心に置いたまま。しかし、そのまわりの客席では、実に何とも愉快なドラマが起きていた。


「気づいてた? あなたの従者がすっかり男に夢中なこと」


「え?」


「あー、やっぱ自分のことだけで精一杯だったかー。そうだよねー、お姫ちゃんはお姫ちゃんで、想うことたっくさんだもんねー」


 わかる。わかりすぎるほどわかる。だってそれは、あたしも(とお)ってきた道だから。


 公女と従者の二人が、共に恋煩(こいわずら)いに懊悩(おうのう)する様子(サマ)を、あたしは特等席で見物することができた。


 ぽやぽやと、ゆっくり気持ちを熟成させていくような公女のそれとは対照的に、従者が自覚してからの決断と行動はまさに電撃そのもの。


 自分から告白し、おそらくは攻め切った。


 勿論すべてを見ていたわけではないし、だいぶ想像も入っているが、従者の醸す雰囲気や表情で、その辺りは察するものがあった。


「多分もう」


 そこまで言った時、階下が騒がしくなった。

 始まったか。


 ──この屋敷は、ザルだ。


 田舎という外敵のいない環境と、それなりに強い戦士が詰めているという慢心からなのか、大国の貴族とトラブルになっていながら、チェック機能は甘いままだった。


 そこへ容易に察せられるバカ騒ぎの前準備。


 やってくれと言わんばかりだった。


 パチンと、指を鳴らす。


 大柄で下品な女戦士が二人、黒い詰襟無地の神父服(カソック)を着た男が一人、部屋に入って来た。


「あなたがたは」


 疑問の誰何(すいか)を言い終える前に、しゃらりと愛用の短剣を抜き、公女の喉元に突きつけてやった。


「ごめんねお姫ちゃん、猿轡(さるぐつわ)と縄をかますけど、抵抗しないでねぇ」


「…………!」


 へえ。


 血の気は引いてる。でも屈してない。

 あたしには分かる。


「お()しなさい。このようなこと、男爵様が放ってはおかない筈です」


 すみれ色の瞳が真っ直ぐにあたしを見据えていた。


「ふーん」


 このあたしに、よくもまあそんな口を。


 ぺちん。


 軽く、手首を返す程度に軽く、頬を平手で打ってやった。


「きれいな顔してる。男を知らない、まだ女になってない少女の顔ってヤツよね。あー忌々しい」


 信じているのだ、この公女は。男なんぞを。


 こっちは過去のトラウマで信じられなくなってるってのにさ。


「ねえお姫ちゃん、男ってあっさり裏切るわよ? あいつら下半身でしか物事考えてないんだから。特にあんな性欲がパンパンに詰まった童貞なんざ、どっかで(たが)が外れたら、真っ(さか)さまなんじゃない?」


 あのイケメンだったマフトゥーでさえ他の女に走った。(いわ)んやブサイクのシビカなら、女を知ったら自制することなど不可能に思えた。


 だからこのあたしがわざわざ名乗り出てやったのに。

 せっかく筆をおろしてやろうと思ったのに。


「ですが男爵様は、断られましたよね」

「黙れ」


 今度は手加減なしで引っ(ぱた)いた。


「お届け物にキズをつけるのはあたしの流儀に反するからさ、あんましイラつかせないでよね」













 Mリーグを視聴するのが好きです。

 麻雀はネットでしかやったことがなく、例によって点数計算できないくちなので、プロの方々の即コールはカッコイイなーと。また、Mリーグをきっかけにして神域リーグも見ていたのですが、これはネット麻雀とVTuberの脱臭効果あってのものなのかもしれませんが、本実況配信、選手視点配信、チーム控え室応援配信といった、一つの試合を複数の角度で楽しめるのが本当に面白くて、構造だけならMリーグを超えていたなあと、今でも思っていたりします。そんなわけで「隠れ勇者と呪われ聖女」、今回も更新できました。一人称を複数展開する小説って、ちょっと前までなら行儀が悪いとされていたらしいのですが、ふと見渡せば、もう当たり前みたいになっていますね。何とも、時代の恩恵にあずかっております。星評価やブクマ、リアクション、感想等をいただければ幸いです!


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