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08 兇兄と愚弟⑩


(おそ)れながら男爵様、あの女は怪しすぎます! お嬢様に近づけていい人間ではありません!」


 シキから抗議を受けた。


 それはそう。


 何しろ装備品のことごとくに髑髏(どくろ)飾りを入れてるヤバい趣向の戦士様である。従者のシキとしては穏やかならざる事態なのだろう。


 とはいえ、である。


「閣下の差配だからなあ。俺の一存でダメ出しはできんというか……」


 貴族社会の哀しい構造(サガ)である。以前の俺ならともかく、いまの俺は男爵で、そしてトライハント伯爵は俺が属する派閥の長なのだった。うーん。


「前向きに考えてみるってのはどうだ」


「はい?」


「だってそうだろ。あれ(・・)がティアージュ嬢を警護してるあいだは、自分の時間が持てるってことなわけだし」


「自分の、時間……」


 特にこれといった案もなく適当なことを言ってみただけだったのだが、シキはまるで雷に打たれたかのように固まってしまい、何事かをブツブツと呟き出す。──あー、これは多分、ロサリグが悪いんだろうなあ。


 うちの家臣(ロサリグ)が戦車隊の女剣士を忖度(そんたく)なくコテンパンにしちまった件については、既に本人から報告を受けていた。


「すいやせん隊長、やっちまいました」


 言葉とは裏腹に、悪びれたふうはなかったが。


 まあ仕方ない。向こうは挑発のワードをミスったのだ。



 試合(しあ)ってみて、シキが独学ながら既に十分な実力を身につけているのは分かった。そこいらの野盗なんかを相手にするのであれば、一人で戦い勝ってしまえるレベルにあると。


 その上で、危うさも見えた。


 捨て身技を多用するスタイルは、可能であれば矯正すべきだと思えた。


 だからロサリグを選んだ。


 当初は気が進まないふうであったロサリグは、しかしシキの上達につれて考えを改めたようだった。


「弟子っつーわけじゃねえですが、悪かねえっすね」


 そんなことを言うロサリグを、俺は初めて見た。


 ふらりと現れた男だった。


 当時の俺は隊長として赴任した先で、ようやく認められ始めた頃だった。


 どう言い繕ったところで当時の俺は若造に過ぎず、軍の上層部にもおぼえは目出度(めでた)いわけじゃなかった。というか、むしろ煙たがられていた筈だ。何しろ上官命令無視の常習者だったしな。


 そんな俺が不自然な理由で階級を上げられ、放り込まれた部隊にベギナラたちがいた。


 報告書によれば前任の隊長は戦死したと記されていたが、事実はそうでなく、戦場で臆病風に吹かれ、隊にとって害しかもたらさない存在へと成り果てた結果、ベギナラによって始末されたのだと着任初日に聞かされた。


「あんたも寝首にゃ気をつけな」


 最初が肝心とばかり、威嚇されたんだっけか。


 顔面に刺青(タトゥー)を入れ、鶏冠(とさか)のように逆立てた箇所以外は頭髪をきれいに剃り上げ、トゲ付きの肩パッド革鎧を着た男──ベギナラが、この集団のリーダー格だった。


 当時の隊には鉄扇(てっせん)使いのジュランと道化師オルカもいた。ここにベギナラを加えてセットとして見た場合、およそまともな軍人像からは程遠い「異端」でしかない彼らと、まさかここまで長いつき合いになろうとは、人生というのは本当に分からないものだ。


 ともあれ彼らとどうにかそこそこ上手くやれるようになった頃、村を襲う野盗の群れを鎮圧するため、とある村に駐留することになり、そこでロサリグと出会った。


 第三勢力。街道の村が雇った用心棒たちの中に紛れていた。


 やる気のない、ダウナーな、しかし雰囲気のある剣士──それが第一印象。


 それなりに手強い冒険者崩れに率いられた野盗を撃滅した帰りに、ロサリグは入隊を志願してきた。俺たちの戦いを見物していたらしい。


「あんたの下にいたら長生きできそうだ」


 理由が、すべて。


 ロサリグの、無理に攻めない守りの剣の根っこは詰まるところそこだ。攻めるという行為には、カウンターをもらうリスクが宿命のようにつきまとう。それをロサリグは嫌った。


 そう。俺を待つための剣とは、裏を返せば自分が死なないための剣なのだ。


 矛盾した男だと思った。以前に酒の席で聞いたことがあった。死にたくないのなら、どうして用心棒なんかをしているのかと。


「……これしかねえんで。仕方なく」


 学もないくせに自尊心だけは人一倍で、舐められたら手が出てしまうのだと言った。あっさり他人の命を奪えるくせに、自分の命が失くなってしまうことには日々おびえているのだとも。


 そんな、良くも悪くも「自分」だけだったロサリグが、まさか誰かのために動くようになろうとは。


 シキを見る。まだ内省中だった。


 ティアージュの従者であり、ロゼの妹。姉と比べて背こそ低いものの、女性らしい丸みを帯びた線が可愛らしい、まだオトナになる前の少女だ。


 彼女を侮辱されたロサリグは即座に相手を叩きのめしたという。まあそこまでなら問題はない。試合ではあったし、死んでもいないわけだしな。


 頭が痛いのは、トライハント伯爵に対しても出過ぎた諫言(かんげん)をしてしまったってことだ。


 ……とはいえ、とはいえだな。


「部下の失敗は、上司の俺がどうにかしねえとな」














 ここまで読んでいただきありがとうございます。

 先月末から体調を崩し発熱しておりましたが、昨日から36℃に回復。ポチポチしてました。

 ブクマや感想、星評価やイイネなど、何かあると嬉しいです。今月もがんばろー。

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