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02 被害者と加害者①


「ドラナーク公はキィーフ王国の大貴族ですが、更に結びつきを強化すべく、ティアージュ様が生まれてすぐ、王家のカルアン殿下との婚約を強引に取り決めてしまったそうですよ」


 淀みなく知識を俺に伝えてくれる。

 外国の貴族事情にまで詳しいとか、うちのロゼの優秀さが誇らしい。


「こえーなー。会ったこともない男との結婚が勝手に決められてるとか、貴族ってなぁ大変だよな」

「シビカ様もそうですからね」


 馬車の中だった。


 王都スノーフィールの中央に位置する王城から、今夜の滞在先となる貴賓館に到着するまでは、まだ少しの距離があった。


 俺とロゼは向かい合って座りながら、今夜たまたま目撃してしまった、あのとんでもない出来事について話し合っていた。


「ていうか、よくもまあ堂々とあんな場で婚約破棄宣言するよなぁ」


 相手はドラナーク公爵家の御令嬢である。よその国の成り上がり男爵であるこの俺でさえ名前を聞いたことのある大貴族だった。

 大事な娘の名誉を傷つけられて、黙っているとは思えなかった。羨ましいことに普通の親なら子のために殴り込みまで辞さないと聞く。


「それなりに計算はあったと思います。ティアージュ様は厳しいお立場でしたから」

「厳しい?」

「ええと、まずティアージュ様は」言いかけてロゼは何かを察知したようだった。「シビカ様、頭を低く、後頭部をお守りください」


 ロゼの指示に俺は黙って従う。ひと回りも年齢が下の、まだまだ可愛い少女だが、伊達や酔狂で俺の背中を戦場で任せちゃいない。

 とっくに俺はロゼを信頼する相棒として認めていた。


 ゴツンと、激しい音と共に衝撃が馬車を揺らした。


「おわっと」


 右手を後頭部にまわして保護、左手はつっかえ棒代わりに車内の壁に突いて、どうにか態勢を維持した。


「シビカ様……」


 突いた左手のすぐ横にロゼの顔があった。

 近い。


「すまん。怖がらせてしまったな」

「いえ」


 なんだ? 随分しおらしいな。


 不思議に思ったが、いまはそれよりやることがあった。


 客箱(キャビン)の外に出ると、そこにはもう一台の馬車の客箱があった。


 その客箱の角の部分が、俺の乗っていた客箱とぶつかっていた。


 ──事故。


 御者を見た。


「あ、あの……」


 見覚えがあった。


 ついさっき、王城で四面楚歌の状況にあった公爵令嬢の従者だった。

 すると中にいるのはティアージュ・ドラナークか。

 面倒ごとになる予感はしたが、安否を確認しないわけにはいかなかった。


「おい、大丈夫か」


 客箱の扉を開け、中を見ると、泣きはらした顔の御令嬢がいた。


「あ、貴方様は?」

「前の馬車に乗ってた、シビカ・ネガロだ。何があったんだ」

「私にも皆目……」


「申しわけありません!」


 御者が、俺たちに頭を下げていた。



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