ネオ③
三月に一度、わしら貴族の当主は王城に集い、ミカド陛下と昼食を共にする。
そしてその日に限り、王城の大広間が特設の食堂となるのだ。
どこまでも高い天井と、敷き詰められた厚手の絨毯。
そこにはテーブルをUの字型に並べた特等席が設けられていた。
わしは家令のヨモトと、ドラナーク騎士団の団長を任せているソレイペッタの二人を背後に立たせ、Uの字テーブルの上座席に腰掛けていた。
既にキィーフ王国十三貴族は全員、この場に勢揃いしていた。
ギョロリと、周囲を見渡す。
老齢の侯爵が眠そうにしているその横で、優雅に茶を飲むサクリ・メーギッド伯爵がいた。
たまたま息子たちが優秀だっただけなのを、己が才覚と勘違いし、身の程知らずの夢を見るようになったメルサム・テラスエンド子爵もいた。
相変わらずのメンツだった。
不穏な動きをしている者はいる。だがそれでも、依然として十三貴族の頂点に君臨するのはこのわし、ネオ・ドラナークだ。それは今後も変わらない。いや、変わってはならないのだ。
「皆、よく来てくれた」
悠然と、初めて謁見した時から姿の変わらないミカド・ケンヨウイン陛下が姿を現し、Uの字席に蓋をするような配置をされた横一列席の中央に座ると、食事会は厳かに幕を開けた。
ミカド陛下の隣には、カルアン王子がいた。
浮かない顔をしていた。
一方で浮かれている者もいた。
「カルアン殿下、調子はどうですかな」
「ああ。大事無い」
「モーナを……我が娘を頼みましたぞ」
オータムール・カーノ伯爵だった。
カールを盛りまくった鬘を被ったその中年貴族は、降ってわいた幸運で自制が利かなくなった卑しい笑みを満面に湛えていた。
──泥棒猫を躾けた飼い主めが。
そう。わしの敵は多い。
王太子の婚約者という首輪が外れたティアージュと番おうとするメーギッドやテラスエンド以外にも、隙あらば足元を固く、高くしてこちらよりも上になろうとしてくる賢しい詐欺師たちばかりなのだ。
オータムール・カーノもまた、その一人だった。
王族との婚姻で、カーノ伯爵家はどれだけ立場が強化される? 今後は追い落としの策を練る必要があるか?
傍目には平静に食事を進めながら、わしの頭は今後について忙しくシミュレーションを重ねていた。
前菜は薫り高いバジルが散りばめられたトマトとチーズのカプレーゼだった。
その後に淡麗柚子塩のチキンスープが振る舞われ、完璧な焼き加減のメットボアのステーキがメインを飾る。デザートの仙草ゼリーに皆が口をつけたあたりで、それまで黙々と銀食器に集中していた陛下が手を休め、揃い踏みした十三貴族を睨めまわした。
緊張が走った。
「一応、貴公らに問うておく。この場に同席を許される者らの条件として、ワレは『何より信のおける強き者』と通達していた。相違ないか」
毎回の、これは儀式のようなものだ。
自分の領地の、あるいは部下の中から最強と見込んだ者を連れていく。
「家令のヨモト、我が騎士団の長であるソレイペッタを連れて参りました」
一見して女のようなヨモトは、しかし格闘戦では無類の強さを誇る。またソレイペッタは戦士の上位職である騎士の職能に至ったドラナーク領最強の男だ。陛下の出した条件を完璧に満たしていた。
老侯爵もカーノ伯爵も、邪魔なメーギッド伯爵も、わしの二人には遠く及ばぬ弱そうな連中を紹介した。
キィーフは物騒な他国とは違い、町に魔物の影はない。せいぜい深い山谷、光差さぬ洞穴にゴブリンが発生し、街道に出て悪さをするのが関の山だ。必然、討伐に駆り出される冒険者のレベルも相応になる。強者が育ちにくい土壌だった。
だが、メルサム・テラスエンド子爵が紹介するこの二人だけは、毎回わしの癇に障ってきて不快この上なかった。
「高貴なるワシが陛下に自信を持ってお目通りさせるのは、言うまでもなく我が息子たちにござります。兄ポッツと弟ケッツ。最強の二人でありますれば」
縦と横。
兄弟を端的に表現するなら、ここまで圧縮が可能だ。
縦は兄、ポッツ・テラスエンド。
逆立てた黒髪に化粧をした白塗りの肌が奇怪だった。背がヒョロリと高く、骨と皮ばかりで肉は最低限しか載っていない。
横は弟、ケッツ・テラスエンド。
黒い前髪はお椀をかぶせたような、いわゆる坊っちゃんカットだった。子供の年齢なら微笑ましいそれも、成人済みの不健康な肥満体がしていたら、即座に苦笑いへ変わるしかない。皮膚は弛み、顎肉は首を隠すほど垂れていた。
貴族の子弟ならありがちな、病的な資質を感じさせるこの二人が、まさか時空魔法においてはサクリ・メーギッドに比肩するほどであるというのだから、血統魔法発現の理不尽を嘆くしかない。
「前回より成長したかどうか……。どれ、試してやろう」
そう言って陛下は毎度恒例のそれをする。
スプーンを置き、代わりに利き手を持ち上げ、パチンと指を鳴らすのだ。
それだけ。
本当に意味が分からない。
誰も何も言わず、気まずい沈黙が流れるのも恒例だった。
「ふふ。“共鳴”に至る者、未だ現れずか」
だのに当の陛下は残念そうに、またどこか安堵したように、この状況を楽しんでいた。




