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07 勇者と師匠⑥


「こちらがライデリッヒ・トライハント様。いまフェネキアと一緒に旅をされているかたです」


 紹介された勇者はまだ十代で、線の細さが否めないこれからの少年といった印象が強かった。


 ──神弓(しんきゅう)


 俺と同じだ。手にしたモノが「弓」と思えれば、それは瞬時に神の弓へとその威容を変える。もっとも、ただの棒切れで十分な「槍」と違って、弓は若干面倒かもしれないなと、そんなどうでもいいことを考えた。


「勇者様、なのですね。私、初めてお目にかかれました」


 ぱあっと、ティアージュが瞳を輝かせていた。

 ……まあ、何も言ってないし仕方ないな。


「男爵、お隣のご令嬢は?」


「あー」


 少し詰まった。どう説明したものかと。


「ティアージュと申します。事情(ワケ)あって男爵様のもとに身を寄せておりますが、日々大変良くしてもらってます。失礼ですがそちらは、男爵様とはどのようなご関係なのでしょう?」


 ティアージュさん?


「…………(ふる)い知り合いになる」


 フェネキアは言葉を選んでくれた。


「ここにはどういったご用件で来られたんですか」


 遠慮のない声が後ろから飛んだ。


「ちょ、ロゼ」

「私も気になります」


 咎めようとした俺をティアージュが遮った。


 なんだこれ。うちの女性陣がフェネキアに対してやたらグイグイ行くんだが。


 当事者であるフェネキアは苦笑していたが何も言わず、代わりに彼女の隣に座っていた弓の勇者がすっと立ち上がり、俺──ではなく、その背後に立つロゼに向かって頭を下げた。


「ロゼさん、どうかおれに、弓の技のご指南をしていただけませんか」


「え?」


 面食らったように、ロゼが固まった。


「そのために、こちらへ?」


 ティアージュの質問にはフェネキアが答えた。


「音に聞こえし曲射の名手といえば、アクトラーナ男爵の従者ロゼ。弓を学ぶ過程で何度その逸話を耳にしたことか」


 それを聞いたロゼがジロりと俺を見た。不服そうに。


「きっとそれ、どっかの誰かが()って流したデマだと思いますよ」


 心外だ。


 俺はただ、ロゼの凄さを多くの人に自慢したかっただけなのだ。

 根も葉もない噂で名誉を傷つけられているロゼを見過ごせなかった。だから実際にロゼの弓の技がどれだけ素晴らしいのか、盛大に喧伝しただけなのである。まあ、そこに多少の誇張が入ったとて、御愛嬌ということで許してもらいたい。


「仮にも私なんかが勇者に教えることなんて」

「いえ、そんなことないです。おれは弱いので。足りないものばかりなんです」


 真摯な姿勢だ。


 明らかに貴族の生まれっぽい整った容姿の、金髪碧眼の少年。 


 立ち姿ひとつだけでも、そこには芯が(とお)っていた。

 鍛錬を積んでいる武人が漂わせる特有の気配があった。

 年齢(とし)を考えれば、驚異的ですらあった。


 こんなに成っている(・・・・・)のに、まだ上をめざすのか。


「ええと、ライデリッヒ・トライハント……くん、だっけか。俺からすると、君は十分な強さを持っているように見えるが」


 ん? トライハント……?


「いえ。大魔王を討ちたおすには、全然足りません」


「…………本気か?」


「はい」


 キィーフ王国の最北にある魔族領域にそれはいる。


 ──大魔王ロゲェ。


 かつて俺も、フェネキアたちからその存在について説明された。


 この世界の多くの人々は、北の最奥地に魔族を統べる【大魔王】がいるのだと教えられる。漠然とした情報のみが与えられ、それ以上のことは知らされないままだ。何しろ真実は一部の者だけで秘匿しているのだから。


 実際のところ、ロゲェは王などではない。


 その正体は、魔族が北の地で発見した「存在」であり、本来魔族とは無関係の、純粋な脅威でしかなかった。


 だが(いにしえ)のあの日、四祖の逆襲に追い詰められた魔族には取るべき選択肢が(ほか)になかった。


 彼らは自分たち魔族を救ってくれる都合のいい錦の御旗として、それを【大魔王】として掲げたのだ。


 ロゲェという名は、その存在から周期的に発せられる「音」から名付けられたのだという。


 つまり、意思疎通すら難しいナニカなのだ。


 しかし、ロゲェを目にした四祖の軍は戦うことすらもせず、速やかに撤退した。それほど危険な、不可侵なるモノであったと、四祖の一人が文献を(のこ)していた。


 討伐は叶わなかったが、代わりに四祖は魔族たちを北の寒冷地に封じ込め、監視役としてその地を四祖の筆頭格であるミカド・ケンヨウインに任せた。


 大陸は四祖が分割統治することで決まり、斯くしてキィーフ、アリス、カクテル、アーバージュロウの四つの国が誕生することとなった。


 そのロゲェを、か。


「ロゼ」

「はい」

「頼まれてくれるか」


「シビカ様がそう言うなら」


 唇を尖らせ、不承不承(ふしょうぶしょう)にロゼが肩を竦めた。


「でも私の弓、ほぼ独学なんで、他人(ひと)に上手く教えられるか分からないですよ」


「がんばります!」


「ん〜、頑張られてもなあ……」




 初めて目にした勇者が、神刀のバルホワだった。


 まともな勇者は、彼だけだった。


 ──いや。


 バルホワのほうがオカシイのかもしれないと、いまではそう思うようにすらなっていた。


 それくらい、他の勇者は何もしていなかった。


 根城にしてる町から出ない。危険を冒さない。魔族領域をめざすなど(もっ)ての(ほか)である、という感じだった。


「は? 魔族と戦う? そんなん、神刀(バルホワ)に任せときゃいいだろ」


 いつだったか、アリスにいる勇者と話したことがあったが、彼はそう言ってこちらを笑いとばした。


 なんだそれ。


 勇者は、ただの職能(クラス)持ちなんぞとは別格の戦闘力を持つ。自分だけの、神から授けられた武器を操る力を与えられているのだ。


 それは何のためか?

 決まっている。

 魔族と戦うためである。


 それなのに、バルホワ以外の勇者の、なんという堕落ぶりか。


 だが自分に、その勇者を(そし)る資格はなかった。


 何故なら自分は、その勇者以下であったから。


 勇者の使命を背負うことも、それを(なげう)って汚名を被る度胸もない、臆病な隠れ勇者だった。


 ならばせいぜい、勇者の本懐を果たさんとするこの少年を手伝うくらいのことはしないと、きっと寝覚めが悪くなってしまうだろう。














※登場キャラ解説

〇ライデリッヒ・トライハント

神弓の勇者。略称ライデル。

金髪碧眼の王子様な容姿をしている。


〇フェネキア・クリームタルト

銀髪三つ編み眼鏡メイドさん。暗殺者。

勇者の知り合いが多い。

ライデルの使う格闘術の師でもある。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

今回から顔見せしています神弓の勇者ライデルとフェネキアの二人は、ノクターンノベルズにて書いています↓


「ぼっち勇者のドーナツクエスト」

https://novel18.syosetu.com/n1164jk/


における主人公とヒロインだったりします。

物語的には地続きなため、作品をまたいで登場するキャラとかいるんですよ(宣伝)!


ちょっと手が止まることが多くなり、駄目だなーと思ったりはします。さくさく短く書くつもりが。

気を取り直したい。いろいろ!



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