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06 老人と冒険者たち⑥


 ロゼを連れて屋敷に戻った俺を、いの一番に出迎えたのはオーバーオール姿の胡散くさい商人だった。


 エマ・サヒージュ。


 キィーフ出身ながら、四祖の国すべてに太いパイプを持つというサヒージュ商会の頭目である。


 黒髪をだらしなく伸ばし、信用ならない笑みを浮かべた若い痩身の女であったが、さすがに今日のところは感謝から入るべきだろう。


 まあエマもそれを期待して玄関で待ち構えていたに違いあるまい。


「助かったよ。おかげで先手を取れた」


「役に立ったようで何よりですわ」


 ──時空震探知器。


 予知はできず、映し出されるのは光点と大まかな方位だけと、様々な制約があるにせよ、設置場所を中心とした半径五キロ圏内の転移魔法に反応する、それは水晶球状の魔導具であった。


「ま、(じゃ)の道は(へび)ってヤツやな」


 こんな物を所持しているサヒージュ商会にも(おそ)れ入ったが、エマはこれを安価で提供し、使いかたの説明までしてくれたのだった。


 その途中。


 まさに絶妙なタイミングで、屋敷の近くに何者かが転移してきたのだった。


 キィーフの国内情勢に詳しいと胸を張るエマが言うには、現在ティアージュの身柄を欲している最右翼はケッツの父親でもあるメルサム・テラスエンド子爵と、ホルダを送り込んできたサクリ・メーギッド伯爵の二人に絞られるそうだ。


「キィーフの貴族は大なり小なりイカれてるもんですが、まあ突出してるのはこの二人で間違いあらへん」


 つまり、ドラナーク公爵と同程度には血に狂った貴族であるということか。


 どちらが来たにせよ、当然、一人で来るわけがない。それなりの襲撃者を引き連れて来ている筈。


 それを見越して、ティアージュのための護衛を屋敷に残し、俺はロゼと出撃したのだった。


 軍人時代、ロゼが俺の単騎駆けについて来られるようになってからは、だいたい二人で遊撃に出る機会が増えた。


 その折、どうしても神槍(しんそう)の力を使わなくては切り抜けられない状況に(おちい)った。


 仕方がなかった。出し惜しみをしていたら、ロゼを失うところだったのだから。


 信じられないモノを見る目を、ロゼに向けられたっけか。


 無理もない。


 勇者というのは、どう考えても気味の悪い存在だ。


 強すぎる魔族と、弱すぎる人族のバランサー。


 それぞれが神から授かった兵装を持つという。


 俺の場合、それが槍だった。


 俺が、「これは槍」と思えさえすれば、それは立ちどころに神槍と化す。


 ただの爪楊枝が、俺の手にかかりさえすれば一瞬にして長さも大きさも重量も、そして威力すらも規格外の神授兵装(しんじゅへいそう)へとカタチを変えるのだ。


 鍛え上げられ、身体強化の職能(クラス)補正もかかった一流の戦士が両腕でも持ち上げられない、バカげた超重の神槍を、俺は片手で振るうことができた。それどころか修練の末、俺は宙に出現させた槍であれば、手を触れることなく投射する芸当(スキル)まで可能にしていた。


 どう考えても理外の職能(クラス)である。名の知れた勇者として神刀(しんとう)のバルホワ・シズクァート、神斧(しんぷ)のユウィーズ・ボイトックスがいるが、その神刀は大魔王討伐に奔走させられ、神斧も実質カクテル帝国専属という首輪付きなのが現状だった。


 つまり勇者を表明したところでロクでもない未来しか待ち受けていないのだ。ロゼへの勇者バレは、自分の選択の結果ではあったが、正直やっちまった感しかなかった。



「安心してください。私とシビカ様だけの秘密、ですよね」



 幸いにして、ロゼは俺が勇者であることは口外しないと約束してくれた。


 そんなロゼに甘える──勇者の力を使うことも考慮したうえでの、二人駆けだった。


 結果として、正解だった。


 部下を連れて行き、向こうに気づかれ正面からぶつかっていたらと考えると、そら恐ろしくなる。合図の信号魔法を打ち上げられ、町に被害を出していたかもしれない。


 今回の一方的な勝利は、ロゼの腕前と神槍の力による奇襲が成功したからこそだった。


 ディースだけじゃなく、斧使いの女戦士も、弓兵も少年魔法使いも相当な実力者だった。実際、こうして俺は首元に傷を負わされてしまったわけだしな。


「男爵様、血が」


 俺の怪我を見てティアージュが動揺してくれた。


「あー。かすり傷だよ。心配は要らな」「そんなこと!」「駄目です」


 ティアージュとロゼの声に、俺の言葉がかき消された。心配してくれるのはありがたいんだが、ホントにかすり傷なんだよな。


「ティアージュはん、出番やで」


 これを待ってたとばかりに、エマがティアージュの肩をポンと叩いた。


「え、あの、私、医療に関しては恥ずかしながら」

「ちゃうで。男爵はんの怪我ンところに、光を当ててみい」


「こう、ですか」


 おずおずと、エマに促され、ティアージュが俺の首元に手をかざしてきた。


 大丈夫だよな? と魔物を消滅させた光に照らされる恐怖が内心ありつつも、俺は少し膝を屈めてティアージュのやりやすいようにさせた。


「いきます」


 ぽわ、と暖かい光が俺の傷を照らしていく。


 あ、これ、マジか。


「嘘……」


 ロゼが息を呑んでいた。


 そりゃそうだ。



 そこにあった傷が、なくなっていた。



 どころではない。



 戦いの疲労も、久々に使った勇者の力も、すべて回復していた。


「こりゃ……まいったな」


 マジもんの聖女が、そこにいた。



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