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06 老人と冒険者たち④


(おとり)作戦とかよォ、石橋叩きすぎじゃねえのか」


 老執事ホルダ・マレードが引き連れてきた、新顔の冒険者四名のうちの一人が、呑気に軽口を叩いた。


 前回も四人で、今回も四人。どうやらホルダの転移魔法は自身を除いて四名の同伴転移が可能であるようだった。正直すごい才能である。


「甘く見るでない。あの野獣男爵めは元軍人、それも最前線で魔物の群れを討伐してきたと聞く。対して我らキィーフはここ数年、魔物の出現率が他国に比べ激減していることもあり、ぶっちゃけ交戦経験が少ないトーシロばかりよ。まともにぶつかればこちらの分が悪い。向こうの戦力は可能な限り、割いておく必要があるのだ」


 ホルダはモノクルを光らせ、若い戦士を(たしな)めた。


 意外だった。


 前回の印象から、もっとヒステリックに喚き散らすのかと思いきや、理が通った説教をしているじゃないか。


 これはホルダ・マレードという人物への評価を改めるべきか。


 連れてきた冒険者の構成も、なかなかに考えられていた。


 見かけから判断するに戦士、戦士、弓兵、魔法使い。


 そこに回復、バフ担当の僧侶系はいなかった。


 つまり完全なる強襲編成。


「えーと、向こうに先に暴れてもらうんだよな」


 先ほど軽口を叩いた戦士の男が、確認するようにホルダに尋ねた。


「そうだ。其処(そこ)な魔法使い、名前は?」

「デニッシュ・コルネです」


 素直に答えた魔法使いは、四人の中では最年少に見えた。水色のローブを着込み、フードで頭部も覆った正統派の魔法使いの装いではあったが、そこから覗く顔はまだあどけなさが残る少年のそれだった。


「何か派手な魔法を一発、上空へ放て。それが向こうへの合図となる」


「なるほど。町の宿に滞在している先行組が大暴れを始めれば、男爵邸に詰めているゴロツキどもがオラオラと鎮圧に急行する。我らはその、手薄になった男爵邸を襲うわけか」


 弓と矢筒を背負った男が納得したように頷いた。


(しか)り。我が主人は、わたしを信頼して待ってくれているが、そろそろ痺れを切らす頃合いだ。野蛮な異国の野獣が凌辱し尽くしたであろう中古に、果たして価値などあるとは思えんが、ま、主人の望みとあらば叶えねばなるまいて」


 …………。


 まあ、ケッツ相手にフカしこいた手前、被害者ぶるのはちょい苦しいのだが、既にドラナーク公が広めたデマによって、俺は些細な瑕疵(かし)を理由に無理やり公爵令嬢をさらった、憎っくき悪辣貴族に仕立てあげられてしまっていた。


 このデマを聞いて、信じた者たちにとって、俺は好きに叩いてもいい悪役で、俺の領地にしてもまた、勝手に乗り込んで、暴れてもいい場所になっていた。


 いわゆる勇者気取りだ。


 勝手に他人の家に上がり、家探しして金品をむしるは当たり前、気に入らなければ暴力を振るい、無銭飲食等の横暴を繰り返してもまるで悪びれない、魔族と戦う資格を神から授けられし傲慢なる勇者たち──。


 彼らはその強さゆえに恐れられ、疎まれ、羨望された。


 キィーフに、アリスに、カクテルに、アーバージュロウに、「勇者」は複数存在した。


 それは強大な魔族と、比して脆弱にすぎる人族の間の均衡を保つために生まれ落ちてくる、戦いを宿命づけられた存在であると、神殿の大神官は世に広め、勇者と認定された者への特権を定めた。


 実際、キィーフ北端の魔族領域に赴き、そこで孤独な戦いを続けている勇者もいるという。


 しかし多くの勇者は、特権に胡座(あぐら)をかき、自分のナワバリから出て行こうとはしなかった。安住してしまっていた。ほとんどが堕落していた。


 結果、勇者のようなフリーダム特権を得たいという、仄暗(ほのぐら)い感情を持つ者たちばかりが増えることになった。


 自分たちは絶対正義で、対象は悪。


 ホルダが連れてきた冒険者たちは、まさしくその二元論に高揚しているのが傍目にも見て取れた。


 ウキウキしていた。


「じゃあデニッシュくん、派手にブチ上げてくれたまえ。夜空を飾る、きれいな花火をね」


 ホルダ自身も高揚しているようだった。

 歯茎が見えた。


 夜。そう。夜だった。


 陽が落ちて間がないため、まだ辺りは薄闇に包まれていた。


 少しだけ開けた野原に、ホルダと四人の冒険者たちはいた。


 ここからうちの屋敷までは、斜面を駆け上ればすぐである。いい場所を見つけたもんだと感心した。


「そうですね。ぼくの手持ちの魔法の中だと、鮮やかな稲光(いなびかり)が空に映えそうな“雷撃(サンダーボルト)”で行こうかなと」

「うむ」

「じゃあ、いきます」


 少年魔法使いデニッシュ・コルネが右手を天に突き上げ、魔法陣を展開した。


 程なく詠唱は完了し、一発の雷撃が夜空に打ち上げられる。

 そしてそれを確認した先行の滞在者組は派手に暴れ出し、俺の治める町を滅茶苦茶にするつもりなのだ。


 俺が悪者で、俺の町も同罪だから。



 まったく、ふざけた話だ。



 俺は槍を投げた。



 正確には、指先に挟んでいた爪楊枝(つまようじ)だが、まあ長細くて先が尖っていたら槍みたいなもんだろ。


 それは宙空で瞬時に膨張し質量を伴い、変形しながら速度を増した。


 命中時には長大かつ鋭利、そして重厚な突撃槍と化していた。


 目を見開いたホルダは何を思っただろう。


 そこには、合図を打ち出す筈の魔法使いが半分(・・)しかいなかった。


「は────?」


 上半身が吹き飛ばされ、腰から下だけがヨタヨタと、どうにか野原に二本の足で立っていたが、それも間もなくバランスを崩し、横倒しに崩れ落ちた。


「隠れていただと!?」


 真っ先に反応したのは弓兵の男だった。


 迅速に戦闘態勢へと移行しようとしたが、もうその時には終わっていた。


 あらかじめ射ち上げられていたロゼの矢が弓兵の頭部へと降り注ぎ、その息の根を止めたからだ。



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