01 小姓と隊長④
「まあ、シビカ様が女に餓えた野獣なのはよく分かりました」
いやいやいやいや。
「違うから。領民のみんなにも、あと外面的にも何かこう、娶ってないと良くないっていうかさあ」
貴族になって、しがらみが増えた。
社交界の場にも招待されるようになった。
顔を出してみて、あ、笑われるだけの場だこれ、となった。
まず燕尾服が似合わない。
俺のサイズに合う特注品が必要だった。
「あー、これはどうなんでしょうか」
歯に衣着せぬ物言いのロゼが、気を遣って言葉を濁すほどだった。
そもそも味方がいないと、つらいだけの場であることに気づいた。
成り上がりの新参男爵にとって、周囲はすべて敵だった。
「人の心がない連中とはつきあえないよ」
「そんなに酷いんですか」
「あいつら噂好きすぎるだろ。何が『あなた、毎晩子供をさらって来ては、気を失うまで犯すらしいわね』だよ。信じられねえ」
「でもそれに近いことはしましたよね」
「してねえから」
何故かロゼがムッとした顔になった。
「おまえにしたって……」
「なんです。言葉濁さないでください」
ロゼは出会った頃と違い、髪を長く伸ばし、後ろで結んで馬の尻尾のようにゆらゆらさせていた。
すらりと背が伸び、手足も長くなってしまい、もう犬猫のように片手で抱えて運べなくなっていた。
まだまだ幼い面はあるが、ちゃんときれいな、おとなの女性になりつつあった。
「いやだから、噂じゃ俺は、おまえのことも愛人にして毎晩可愛がってるって」
「へーーーー」
なんだその反応。
「国内は論外、国外に打診してもいい返事はなし。シビカ様、詰みましたね」
「おまえは面白そうだな」
「いえ。面白くはないです」
ロゼが表情を一変させた真面目モードになっていた。
懐から一通の招待状を取り出し、俺に渡す。
「これはある意味で賭けみたいなものですが、乗ってみる価値はあると思います」