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06 老人と冒険者たち③


「合格ですってシビカ様。やりましたね」


 棒読みで祝福するロゼの冷やかな視線が先ほどから痛い。


 十代の頃にさんざかやらかしてきた、青くさい、記憶の奥底に封印したような行動を、まさか三十路を前にして再びやらかすとは思わなんだ。


 あの日あの時あの場所で、婚約破棄を目撃してからこっち、憤懣(ふんまん)やるかたなく溜まっていた感情の()け口を、ものの見事に(あつら)えられた──そんなしてやられた感。


 どうにも苦手なタイプだった。


 できることならこんな得体の知れない商人(ヤツ)とは話もしたくなかった。


 男爵なんて立場さえなければ、きっとそうしていただろう。だが、嫌な相手から逃げ、部下に丸投げするってのは、俺の流儀に反していた。


「それで? 合格しようがしまいが、商人のアンタが見返りなしで動くわけないよな」


「よーわかってまんな。実はここだけの話、ティアージュはんにはちょっとした特技がありましてな」


「ああ、魔石の補充のことか」


 俺がその件は承知している的な態度を見せると、エマの顔に貼り付いていた胡散くさい笑みがスンと引っ込んだ。


「へー。ほーん。なんや、えらい打ち解けてたんやなあ。けど、そんなら話も早いってもんや。ティアージュはんの補充する魔石! うちが欲しいのはこの一点のみや。定期的な取引に応じてくれはるなら、うちの交渉力で男爵はんらを外圧から守り、この領地に富をもたらすこと、サヒージュ商会の名に懸けて約束しまっせ!」


 ビシッとキメポーズを取った。


 好条件だ。


 本当にそんなことが可能であるなら、いま俺を悩ませている問題の大半が解決される。


 ただ、肝心なことがボヤかされていた。


「悪くない」

「でっしゃろ?」


 駆け引きは苦手だ。


 だから真っ直ぐに聞いた。


「それで、ティアージュには教えてるのか」


「…………」


 沈黙が答えだ。


 魔石への補充作業とやらを見た時から、引っかかっていた。


 エマは知っているのだ。知っていて、ティアージュには教えてない。


「エマさん?」


 有耶無耶にできると思ってたらしいエマは、黙り込んだ自分のことを心配してくれるティアージュを前にして、観念したように前髪をかき上げた。


「しゃーないか。どのみち、いずれはと思っとったことやしな」


 言って、エマは背負っていたバックパックを床に置くと、中身をごそごそと探り、手のひら大の謎のカプセルを取り出した。


「ほう。キャプチャーカプセルですか」


 この場で反応したのはハビィだけだった。ロゼも小首を傾げていて、どうやら知識の外らしかったので、ここはハビィに乗っておこう。


「知っているのか」

「極めてレアな魔導具です。服従(テイム)した魔物を一時的に封印し、持ち運びができるようにしたとか」


「こん中にはシャドーゲッコーを封印しとります。小型のトカゲみたいな魔物ですが、まあこれが一番分かりやすいでっしゃろ」


 カプセルに取り付けられたボタンを押してからポイと放り投げると、床に落ちる間際、カプセルが割れて煙と共に黒一色のトカゲが姿を現した。


「ティアージュはん、灯明(ライト)で照らしてや」

「あ、はい」


 両の手のひらをシャドーゲッコーにかざし、ティアージュが生活魔法の灯明(ライト)を使用すると、やはりそこに灯るのは通常の()ではなく()の光だった。


「……!?」


 この場にいた、エマ以外の全員が目を疑った。


 ティアージュの白い光に照らされたシャドーゲッコーが、ぐずぐずと崩れていく。


 黒が白に侵蝕され、跡形もなく消えていくその様は、なるほど分かりやすかった。


「言いワケ、させてくれへんか」

「どうぞ」

「おおきに男爵はん。こんな『力』、自覚したところで戸惑うだけやと思たんや。ましてドラナーク公ンとこにいたティアージュはんは籠の鳥や。何ができるワケでもあらへんやろ」


 まさに言いワケだな、とは思った。


 どんなに上手く取り繕ったところで、この力をただの生活魔法の灯明と(あざむ)き、ティアージュはもとよりドラナーク公も騙して魔石の補充をさせていた事実は(くつがえ)らない。


 ティアージュと親しげにしていたのも、商人としての嗅覚がそうさせたんだろうと勘繰られておしまいだ。


 まあ、いい。

 商人のことはどーでもいい。


「それで、何なんだ、これ?」


「分かって聞いてるんやろ、男爵はん」

「ああ、そうだな。分かって聞いてるよ。だから答え合わせがしたい」


 エマは俺の物言いに苦笑した。


 ティアージュは己の手をじっと見ていた。




「聖女、ちゅうヤツですわ」



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