06 老人と冒険者たち①
ミヤンガからの報告書が上がってきた。
それは中央の町の宿屋にここ最近、滞在するようになった旅人四人に関する調査報告書であった。
──密偵。
ミヤンガは俺の元部下ではあったが、家臣として名を連ねてはいない。
表向きは、消息不明となっている。
家臣となったベギナラやハビィたちとも、町の酒場でマスターをしているような、軍人を引退してセカンドキャリアを歩んでいる連中とも違う。
その存在は、俺と一部の人間しか知らなかった。
「あー、ミヤンガ。あいつかー。名前しか知らねえっす」
ベギナラでもこれであった。もっともこれは、ベギナラ自身が肝心な場面で潜伏中のミヤンガと出会した時、知らんぷりができそうにないからと、敢えて顔合わせは無しにしてくれと申し出ていたからという注釈が付く。
うちの部隊はまさしくゴロツキの群れであり、ほとんどの戦いを文字どおりゴリ押しで制してきたのだが、それでも戦力が拮抗した危うい状況は何度かあり、その微妙な際を左右したのはミヤンガのもたらした貴重な情報のおかげだった。
だから俺はいまも、ミヤンガを家臣としてではなく街の名もない住人として溶け込ませ、必要に応じて情報を収集させていた。
■アクトラーナ男爵領中央街の不審宿泊者について
宿泊場所 ドバイの山羊亭
宿泊者 四名(以下、甲乙丙丁と記す)
甲 本名キューズ。キィーフ王国冒険者ギルドに登録有り。白銀級。大盾使いのタンク型戦士。年齢29歳。性別男。離婚歴有り。キィーフ王都スノーフィール在住。娘一人を養育中。
乙 本名オリバー。キィーフ王国冒険者ギルドに登録有り。青銅級。大剣使いの一撃型戦士。年齢24歳。性別男。犯罪前科有り。住所不定。
丙 本名ギリータ。キィーフ王国冒険者ギルドに登録有り。青銅級。魔法使い。年齢26歳。性別女。キィーフ王都スノーフィール在住。乙と同棲中。
丁 本名ベノカ。キィーフ王国冒険者ギルドに登録有り。白銀級。僧侶。年齢27歳。性別女。キィーフ王国メーギッド伯爵領在住。
前記の甲乙丙丁、いずれも氏名を偽りドバイの山羊亭に宿泊中。
部屋については甲乙が二階のA号室、丙丁が同二階のB号室を借りているもの。
現時点、ホルダ・マレードとの接触なし。
「うーん。旅人っていうテイで宿泊だからなあ。理由もなく叩き出すわけにゃいかんよなあ」
「え? 今更落ちる評判もないし、やっちゃっていいのでは」
「だな! 面倒くせえしよ!」
うちの小姓とモヒカンは過激派すぎる。
「罠の可能性もあります」
コホンと咳払い一つ、ハビィが冷静な意見を出してくれた。助かる。
「まあ前回は数的不利で撤退したみたいなとこあったしな。それを踏まえて、今度はこっちの数を割こうって思惑があるのかもしれないわな」
どうにも、外からいいように攻められてるみたいでストレスが溜まる。
結局のところ、外国の貴族絡み案件であるせいで、いま一つ振り切ることができないのだ。それを打開すべく、派閥の長であるトライハント伯のところへ早馬を出してはいるのだが、未だ回答が来る気配がなかった。
まあ、しかしそれはそうなのだ。
四祖の国の力関係は、表向き対等。
だが実際のところ、キィーフ>アリス、カクテル>アーバージュロウであることは公然の事実であった。
転移スクロールの流通元という強みは、それほど圧倒的だった。
ざっくり言うなら、アリスはキィーフと揉めたくないのだ。
向こうもそれが分かっているから、こんな無法を平気でやってくる。
「むかつきまっしゃろ?」
場の沈黙を破ったのは、胡散くさすぎる声だった。




