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シキ②


 一年ほど前、わたし(あて)の手紙が届き、そこで差出人である姉から父が亡くなったことを知らされた。


 同時にそれは現在の姉が、私を探し当てられるくらいのポジションについていることを意味していた。


 何通かのやりとりをした。


 互いの近況。


 わたしを外へ連れ出してくれた恩人、ティアージュお嬢様の苦しい境遇を綴った。


 一方で姉は、自分の養父となったシビカ・ネガロ・アクトラーナという男について熱く語ってくれた。


 それは到底、養父の枠に収まる内容ではなかった。


 英雄であり、理想の主人、そしてそれ以上(・・・・)の願望を、ここぞとばかりに書き留めたものだった。


 何者か。


 興味をかき立てられずにはいられなかった。


 隣国の貴族も参加が可能な、王国貴族交流会が近く催されることをお嬢様から知らされた。


 ここだ、と思った。




「え……」


 十年ぶりだが一目で姉と分かった。

 だがその横に立つ男を見て、わたしは困惑せずにはいられなかった。


 姉の手紙に書かれていた文面から想像していた容姿(ビジュアル)とは、あまりにかけ離れていた。


 どんな貴公子が来るのかと思ったら……。


 短く刈り揃えた赤葡萄色の髪に太い眉、意志の強い眼光と見るからに発達した顎が印象的だった。

 骨付き肉を、骨ごと噛み砕いて食べてしまいそうな、そんな堅固な顎をしていた。


 お世辞にも、美男子とは口にできない類──。


 しかしそれ以上に、その太い首と巨躯に圧倒された。


 間違いなく会場で誰より背が高く、誰より厚みがあった。


 真偽はどうあれ、これは言われてしまうだろうなと思った。


 ──野獣男爵。


 隣国の新米貴族の噂は、わたしの耳にも届いていた。


 曰く、武功だけで貴族に成り上がった、品性も教養も皆無の野人。


 噂で聞いたそれと、手紙で熱っぽく語られたシビカ男爵のイメージは真逆に等しかった。唯一合致する部分があるとしたら、それは戦場での悪魔的な強さのみだ。


 それとなく、手紙と実像のズレ具合について姉に聞いてみた。


「ごめんね。でも私にとってのシビカ様は、そう映ってるから」


 あー。これは……。


 ()ちた乙女がそこにいた。


 記憶の中の姉は、割とクールな性格をしてた筈だったけれど、歳月は人をこうも変えてしまうのかと、少しこわくなった。


 わたしも傍目には変わったのだろうか。


 実感はない。


 だが姉は見事に美しく成長していた。


 野獣男爵の副官にして、曲射の達人として恐れられる弓兵。


 全部が、シビカ男爵のためだという。


 自分を救ってくれた男のために強くなり、文字の読み書きをおぼえ、できることをすべてやってきたのだと。


 わたしも、ティアージュ様の助けになろうと努力をしてきたつもりだったが、この姉を前にして、何かを誇る気にはなれなかった。


 桁が違った。


 そこまで尽くしたのだ、何か見返りをもらってもいいのではないか。


 たまらず、尋ねてしまった。


「このままでいいのよ。だって、私が好きでやっていることだもの」


 ……ああ。


 その回答だけで、二人の間に何もないことが分かってしまった。


 なんて残酷。


 噂みたいに、毎晩シビカ男爵に抱かれているとかだったら、姉も少しは報われていたかもしれないのに。



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