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05 勤勉と怠惰③


 やることが増えた。


 具体的にはうちの町への魔力灯柱の設置だ。


 何しろ魔石が空になっても補充できるティアージュがいる。やらない理由がなかった。


 それから更にもう一つ。


 これは非常に気が重かった。できれば会いたくない、借りなどつくりたくない人物にお越し願うための手紙を書かねばならなかったのだ。


 イヤイヤ書いた。


 まあ来てもらえるかどうかは定かでないが、ティアージュのためとあらば、俺にかかる多大なストレスくらいどうってことはない。ないのだ。


「ふー」


 慣れないペンでの書き仕事をしてせいか、身体がこわばってしまった。デスクから離れ、軽く関節をほぐす。


 あの後、ティアージュを客人部屋に帰した。


 気持ちを落ち着けるための時間が必要だと思ったからだ。


 ドラナーク公のことを少し考えれば見えてくるものはある。かの御仁からしてみると、時空魔法関連以外はすべて些末事であり、ティアージュが無能であるという観念は固定され、もはや(くつがえ)ることはないのだ。


 よって本来、特殊な魔導師でなければ成し得ない「魔石補充」をやってのけている娘の偉業に気づかないのだ。


 もう、キィーフという国自体に根本的な問題がある気がしてならない。四祖の興した四つの国は、すべて血統魔法を色濃く継いだ者がトップになる決まりだが、少なくともアリス王国はあそこまで血にこだわってない。そうであったなら、ただの平民でしかない自分が貴族に取り立てられることなど、万に一つもなかっただろう。


 アリス大王であるテイダー陛下のゴーレム操役は確かに比類なき戦力だが、実際市場に流通している操役スクロールは、子供の大きさほどのゴーレム(こちらも別途購入)とセット扱いであり、使いみちは力仕事や戦闘時のサポートという、かなり限定的なモノとなる。一方でキィーフ王国発の転移スクロールは、いまや富裕層の欠かせない交通手段となっており、その需要は他と比べるまでもない。いや比べるレベルですらない、が正しいか。


 カクテル帝国の血統魔法は、スクロール化したところで手足を低級〜中級の魔物に変える程度であり、制限時間だって短い。好事家が買い漁っているという噂こそあるが、やはり購入者の用途は戦闘に限られるだろう。普段使いするものではない。


 アーバージュロウ千代連邦の血統魔法もそうだ。魅了のスクロールは対人規制がかけられており、市場に出回るモノは魔物にかけるしか使いみちがない。また、「魅了魔法ではな」などと、軽く見られる向きまであった。


 だが操役、変化、魅了のスクロールを使いこなせたなら、戦闘系の職能(クラス)を持たない人々でも魔物に対抗することができるようになる。──が、その代わりにジャブジャブとカネが消えていくことになるため、冒険者を雇ったほうが安上がりという結論になるのだ。


 現状、キィーフの一人勝ちだった。


 それはそう。行きたい場所へ瞬時にとべ(・・)る転移魔法の誘惑に抗える者などいるわけがなかった。


 時空魔法こそが、四つの血統魔法で最優──。


 その思想は、王家はもとよりその血を受け入れた貴族たちにも根強い。


 ドラナーク公などはその最たる例かもしれなかった。


 時空魔法を発現しなければ、たとえ娘であろうと視界の外。どうでもいい存在に成り果てる。そこにダメ押しで王太子との婚約が破棄されてしまったのだから、おそらく公の中でティアージュの存在は粗大ゴミ以下となった。そうでなければ外国のチンピラ貴族に押しつけて厄介払いなどはしまい。


「くそっ」


 ティアージュの心中を思うと、胸がムカムカした。締めつけられる感覚があった。


 これは、ただ同病を相憐れんでいるだけかもしれない。


 ──どうしようもない、クズみたいな親だった。


 血が繋がっていることが信じられないほどの。

 いっそ養子か、拾われっ子だったなら、どれだけ救われた気持ちになれただろうか。


 二人から逃げるように軍人になった。


 以来一度も家には帰ってない。


 俺は曲がりなりにも親を捨てることができた。

 ティアージュは、しかし親に捨てられたのだ。


 悪名高い野獣男爵のところでも構わない、さっさと国を出ていけとばかり。


 そんなことってあるのか?


 まだ二十歳にも満たない年齢だ。


 俺は、あの子を……。



 コン、コン。



 ノックされた。


「夜分に失礼します。ティアージュです」



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