01 小姓と隊長③
「あの弓兵は君の家族か」
貴族であり、また精強な軍人としても知られるトライハント伯と轡を並べ、押し寄せる魔物の群れに対処していた時だった。
いきなりロゼのことを聞かれた。
「自分の小姓です」
「すごい技術だ。正確な連射と、たまに混ぜて来る曲射が見事にハマっている」
ロゼを褒められると気分がいい。この伯爵、いい奴じゃないか。
「天稟がありました。自分はこのとおり、槍しか取り柄がないのですが、あの子は独学で弓をモノにしたのです」
ロゼは俺の養子となることを受け入れ、形式上ではあれ、あの子の親になった。
俺が20歳、ロゼは9歳の時だった。
あれから8年──。
学校に入れば同世代の子らと触れ合える、友人なんかもできるかもしれない。いっそ学生寮に住んでみてはどうだろうという俺の案を即座に却下したロゼは、何を思ったか俺の身の回りのサポートをしたいなどと言って、まずは掃除から始め出したのだ。
俺が仕事に出ている間に兵舎の職員に教えを乞い、できることを少しずつ増やしていった。
食事をつくれるようになり、文字の読み書きができるようになり、帳簿をつけられるようになり、気がつくと弓まで扱えるようになっていた。
戦場に出たいと言った時、反対したのは俺だけだった。
部下たちは皆、ロゼの味方になっていた。
「ロゼちゃん、もう俺らより強えしなあ」
ロゼは視野が広く、敵の予測が正確だった。
剛力こそなかったが、読みと鋭い連射で不足を補った。
俺のスタイルは単騎駆けだ。
馬に乗って戦場を駆け、手にした槍でとにかく敵を串刺していく。
馬術も修得したロゼは遂に俺の早駆けについてこられるようになり、後方から俺の支援をこなせるまでになっていた。
これまでは戦場で複数の敵を相手にした際など、側面や後方から攻撃を受ける危うい場面があったのだが、それがなくなった。
ロゼがそうなる前に処理してしまっていた。
だからその日も、ロゼを従えた俺はいつものように槍を手に戦場を駆け、トライハント伯の勝利に貢献できたのだ。
「シビカ・ネガロよ。見事であった」
感激した面持ちの伯爵に肩を掴まれ、うんうんと頷かれたのをおぼえている。なるほど名が知られているだけあって、伯爵はそこいらのお気楽な貴族様ではなかった。ちゃんと軍を率いて自らも戦っていた。
この日、魔物たちの群れに難敵が混ざっていて、普通に戦っていたら王国軍は負けていたことを、伯爵は理解していた。
──そしてそのヤバい魔物のことごとくを、俺が前もって潰していたことも。
翌月、俺はアリス王宮に召集され、シビカ・ネガロ・アクトラーナ男爵となった。
その場にトライハント伯がいて、拍手を送ってくれていたのは言うまでもない。