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04 悪虐領主と囚われの姫君⑥


 ケッツを酒場の外に引きずり出してから、回復魔法の使い手を呼びに行かせた。


 ほどなく、家臣の一人にして、俺の元部下の中では珍しい、きちんとした教育を受けてきた騎士爵家出身のハビィ・バッシャがやってきた。


「ほうほう。正確に手首と足首へ命中させていますね。フフ……。さすがはロゼだ」


 のたうつケッツを目にしたハビィは喜色満面にしゃがみ込み、傷口を観察していた。


 ハビィは俺よりもかなり年齢が上で、確か今年で45歳になる筈だ。長く伸ばした総髪と、涼やかな笑みをたたえる外見から落ち着いた印象を受けるためか、何も知らない者は彼を文官、あるいは波風なく人生を歩んできた人物だと誤解してしまうかもしれない。


 だが事実はそうではない。正しく教育を受けた人間が皆、真っ当な人生を歩むわけではないという模範例こそがハビィ・バッシャだった。


 幼い時から凶行に手を染めまくったハビィは、それを知った親の手で神殿島ダルクに収監され、そこで僧侶の職能(クラス)を修得したという。

 本来なら残りの人生をずっと島の中で過ごす筈だったハビィが、どういう経緯(いきさつ)で解放されたのか、結局彼の口から語られることはなかった。


 ヤバい凶状持ちをそちらに配属するという上官からの通達。しかしやって来たのは想像とは違う、物腰やわらかな高等教育も受けた貴族の子息で、オマケに回復魔法まで使えますという優良物件。幸運だった。


「早く治してェ〜〜! これ抜いてェ〜〜!」

「うるさい」


 ハビィは喚き散らすケッツの頭部を掴むと、石畳の路面に顔面から叩きつけた。


「おぼっ」


 ケッツはそれきり何も言わなくなった。


 まあ、ハビィのヤバさは寝食を共にし、戦っているうちに分かった。何なら顔を合わせた初日に見抜いた部下もいたくらいだ。


「一応確認しますが、これ、治していいんですか。昔の話をするのは恐縮ですが、わたしの感覚から言っても、貴族が改心するとは思えませんよ」


 俺はティアージュを見た。


 彼女はシキに支えられてはいたが、いまにも倒れてしまいそうなほど顔色を悪くしていた。


 無理もない。


 聴こえていたのだ。ケッツの声が。


 自分を犯すと。血統魔法を継いだ子を産ませるためだけに種をつけるのだと宣言していた。しかもテラスエンド子爵領へ連れて行かれた場合、もっと凄惨な未来が待っていることを暗に示したのだ。


 これまではカルアン殿下の婚約者という立場があった。


 それが彼女を守っていた。


 いまのティアージュには何もない。


 キィーフ王家とドラナーク公の庇護から切り離された、ただの美しく若い女性でしかなかった。


 問題は、彼女がキィーフ王ミカドの血を継いでいるということ。


 これは時空魔法使いの男がティアージュと交配した場合、生まれてくる子には高確率で時空魔法が発現するであろう事実に(ほか)ならない。


 そこにキィーフ王ミカド・ケンヨウインの、時空魔法使いの強さ、多さで貴族の家格を決めるという方針が拍車をかける。


 何しろ俺は異国の悪徳領主で、ティアージュはそんな俺に連れ去られた悲劇のヒロインだ。


 ──そういうことにされたらしい。


 悪の本拠に乗り込んで、囚われの姫を救い出せば、その後はハッピーエンドだ。ごまかしは幾らでも利く。幾らでも騙せる。今頃、キィーフの貴族たちは血眼(ちまなこ)になってアクトラーナ領への転移スクロールを買い漁っているのかもしれない。何しろ労せずして時空魔法の母体が手に入るのだ。こんなにウマい話はあるまい。


 胸糞が悪すぎる。


 寝覚めどころの話ではなかった。


「なあ、良ければコイツ」

「治して、帰ってもらいましょう」


 俺は見せしめを提案しようとしたが、ティアージュは何と、このゲスを生かして帰すことを希望した。


「…………いいのか?」


「はい」


 重ねてそう言われては、俺も引き下がるしかなかった。




「キサマが野獣男爵だったのか」


 ハビィの回復魔法で矢傷は完治したが、折れた鼻はそのままだった。


「あちらに感謝しな。生かして帰してほしいってさ」


 俺はシキだけでなく、ハビィやロゼに守られたティアージュのいるほうを手のひらで差した。


「おお、美しい」


 ホントにな。

 こんなヤツ、生かしとくこともないってのに。


 ティアージュは、俺の立場を(おもんぱか)ったのだ。


「正当な理由があったとはいえ、キィーフ貴族の子息を手にかけたとあれば、男爵様のお立場が悪くなるやもしれません。私のせいでそれは……」


 俺みたいなのまで気遣えるとか、心根まできれいな御令嬢もいるんだなと、ちょっと感動してしまった。


「見たな? んじゃとっとと帰れ。そんでパパとかお兄ちゃんに伝えろ、あの子のことはもうあきらめろってな」


 無駄だと思うが念を押しておく。ケッツは俺の言葉に敏感に反応した。


「キサマ、もう手をつけたのか!?」


「とっくだよとっく」


 こう言えば興味を失うかなと、適当に言ってみた。


「キッサマ……! そのブサイクな(つら)、忘れんからな!」


 駄目だった。


 ケッツは俺を睨みつけ、転移魔法で帰還した。














※登場キャラ解説

〇ケッツ・テラスエンド

メルサム・テラスエンド子爵の次男。魔法使いの職能を開花させ、時空魔法の才にも恵まれたので蝶よ花よと育てられてしまった。


読んでいただきありがとうございます。

本作と同じ世界の物語をノクターンノベルズにて連載しています。

「ぼっち勇者のドーナツクエスト」

https://novel18.syosetu.com/n1164jk/

ノクターンな作品です。

作品をまたいで登場するキャラもいます。


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