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04 悪虐領主と囚われの姫君③


 とはいえ、捨て身技を防がれた以上、後はない。


 俺は槍を軽くシキの首元に当て、試合を終わらせた。


「参りました」

「独学か」


 少し間があった。


「……そうですね。お嬢様のお役に立てればと」


 そこへロゼが手拭いを持参し、俺に近寄ってきた。


(キィーフは未だ初代が統治しているせいか、かなり保守的な国です。異国人に剣を教えるような物好きはいませんよ)


 詳しい。さすがロゼだった。


 そう。シキの剣は工夫で成っていた。正しい師がいないからこその合理と独創がそこにあった。


「良かった。頼れそうな強さだ。さすがに俺は男なんで、四六時中、あちらさんに張りつけないしな」


 むさ苦しい男にずっと傍にいられたら、ティアージュも気が休まらないだろう。


 デリケートな時間を昔から一緒にいるシキに任せられるなら、それに越したことはなかった。


 ところがシキは、そんな俺の顔をじっと見ていた。


「なんです。シビカ様の顔がそんなに面白いんですか」


 ロゼのツッコミに、シキがあわてたように首を振る。


「あ、違います違います。そうじゃなくて! ……あの、男爵様は、お嬢様が、その、もしかして、お嫌いなんでしょうか?」

「はい?」


 なんでそうなる。


「疑われてますよ、シビカ様」


「あ、すみません。失礼なことを」


 我に返ったシキは何度も頭を下げ、離れていたおかげでいまのやりとりが聴こえていないティアージュのもとに早足で戻ってしまった。


「相手がいなさすぎて、婚約破棄された令嬢でもいいから欲しがってた、なんて、言えるわけないですよねー」


 ロゼの背は高い。同い年の少女と比べても、頭一つ、抜けているだろう。

 それでも俺が高すぎるせいで、見上げる格好になってしまう。


 即ち、上目遣い。


 ロゼは俺の前ではよく笑うが、傍目には怜悧な、いわゆるクールビューティーだ。長い髪を頭の後ろで結って垂らし、すらりと長い手足で風を切って歩くさまなどは、本当に惚れ惚れとする。そんなロゼに間近でこうされるのは、どうにもヤバかった。


「絶対言うなよ」


 視線を外しながら、一応、釘だけ差しておく。

 フッ、とロゼは笑い、俺の腰を叩いた。


「わかってますって!」




 ■Q シビカ・ネガロ・アクトラーナ

 キィーフ王国の強者について。


 ■A シキ

 頂点は間違いなくミカド陛下です。何と言っても四祖の筆頭。時空魔法を極めた御方ですから。次点でサクリ・メーギッド伯爵になり、以下は団子状態と言っていいかと。ああ、ですが最近はメルサム・テラスエンド子爵の二人のご子息が特に躍進著しく、ランキングの上位に名を連ねているとか。名前ですか? 確か、兄がポッツで弟がケッツ、だったかと。お二方とも、以前にお嬢様に絡んで来られましたので印象に残っております。




 町の酒場で若い男が独り、酒を飲んでいた。


 顔は赤くなっており、俺が到着するまでの間にかなりの量を飲んでいたことが窺えた。


 男は上等な服を着ていた。


 一目で貴族と分かるほどの派手で華美な装いだった。


 小さな町だ。知らない顔があれば男爵邸にすぐさま連絡が入るようになっている。どうも男はこの目立つナリで町をフラフラと見物してまわっていたらしい。


 微塵も隠す気がないのは、自信の表れか、それともただの阿呆か。


「やあ(ニイ)さん、ご機嫌だね。何かいいことでもあったとか?」


 男の対面に座り、フレンドリーに話しかけてみた。


「無礼者め!」


 だが男は、そんな笑顔の俺に向け、飲んでいたジョッキの中のエールをぶっかけてきた。


「どこの下民だキサマ! 高貴なボクに気安く話しかけるとか、何様のつもりであるか!」


「これは失礼しました」びっしょりとエールまみれになった俺は、それでも笑顔を崩さず、ペコリと頭を下げた。そのうえで、今度は揉み手も加えてみた。「あのう……もしかして、お貴族様でしたか?」


「ほう。多少なりとワキマエているようだなキサマ! この高貴なるボクこそ、キィーフ王国にその名を轟かす未来が確定した栄光ある大貴族! ケッツ・テラスエンドであるぞ!」


 ワハハハハ! と気分良さそうにケッツくんは高笑いした。



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