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カルアン①


「目立ちすぎだ、阿呆が」


 玉座の間に呼ばれる、それだけで気分が悪くなった。

 

 行けば行ったでこんなふうに罵倒される。褒められたことなどあっただろうか。


「申しわけありません父上。ですがやはりティアージュ……あの公爵家の欠陥品は、キィーフ王家の妃たる資格がありませぬ。此度の独断、間違っているとは思っておりません」


「言うようになったではないか」


 王の声が冷ややかになった。


 ──ミカド・ケンヨウイン。

 キィーフ王国初代国王。

 かつてこのセカイの人々を、魔族の脅威から救った四人の英雄──四祖の一人。


 時空(じくう)操役(そうえき)変化(へんげ)魅了(みりょう)


 四人がそれぞれ、固有の魔法を神より授かっていた。


 魔族との戦いにおいて、直接の戦闘では操役と変化、間接的なら時空と魅了に軍配が上がったという。


 そうして魔族を北に追いやって以降、四人はそれぞれが国を興し、その固有魔法は血縁にのみ受け継がれた。


 最強種である竜へと変化し、強大な魔族をブレスの一吹きで滅ぼしてみせたカクテル帝国の初代皇帝も、天を衝くハニワ型ゴーレムを自在に操ったアリス王国の初代大王も、数で潰さんと押し寄せた大軍を、瞬く間に魅了し同士討ちへと誘ったアーバージュロウ千代連邦の初代大統領も、老いと寿命には勝てず世を去った。


 例外は父ミカドだけだった。


「ワレは老化と寿命を『停止』しているからな。ま、おまえたちにもいずれ似たようなことはできる。励めよ」


 自身がばら撒いた種たちが一堂に会した席で、父がそんなことを言ったのをおぼえている。時空魔法の練度をどれだけ上げればそんなことができるのか、細かいことは何も教えず、ただ励めとだけ。


 国が成って三〇〇余年、父はずっと壮健な四〇代の外見を維持している。黒い髪を後ろに撫でつけ、余裕を崩さず、すべてを見通していると言わんばかりな態度で脚を組み、玉座に腰を下ろしてきた。


 父は巨大な蓋だ。誰も逆らえない。

 これから先も、ずっとこの国に君臨し続ける。

 だからドラナーク公爵などは地位を守ることだけにしか目が行ってない。血統魔法の発現が認められなかった無能の娘を、それでも私に押しつけようとしてきたのがその証左だ。普通は欠陥品と判明した時点で辞退するべきところを……。下手に欠陥品を下位の貴族に嫁がせて、優れた時空魔法使いが誕生してしまうことをおそれているのだ。そうならないために、意地でも無能を王族にやってしまおうと、醜く足掻いているのだ。

 だが、それも昨夜でカタをつけた。


 婚約を破棄した。


 多くの貴族が見ている前で。


 無能の分際で身持ちだけは堅く、婚前交渉を許さない女だった。無能なのに容姿に恵まれ、女に不自由したことのない私ですらをハッとさせる美貌で、尚更それが鼻についた。


 私はこの国の王子だ。

 たとえ不成(ならず)の身であれ、令嬢如きが私の意向に背き股を開かぬなど、あってはならないことであった。


 私を見下す女は要らない。私は、私を立てる女を、言わずとも私を受け入れる女を選ぶことにした。


 モーナ・カーノはティアージュに比べればイロイロ残念な女ではあったが、少なくとも私を気持ち良くさせてくれた。それだけであの無能令嬢より万倍マシだった。


「釘だけは刺しておくがな、カルアンよ、おまえはたまたま、第一王位継承者の枠に入っているだけなのを忘れるでないぞ」


 父がまた何かを言っている。うるせえな。


「勿論でございます。私など、兄に比べれば非才なる身でありますれば」

「ま、ジマクティーが昏睡(・・)から目覚めぬ以上、おまえが自動的に『次期』となるわけだがな」


 つまらぬ物を見る目で、父が私を見下ろしている。兄ジマクティー・ケンヨウインは、優れた時空魔法の才覚を幼少より発揮した。


 さすがは直系! そんなふうに誰もが褒めそやした。


 あの父でさえも表情を緩ませたほど。

 しかしそれも、遠き日のことだ。


 ジマクティーが目覚めることはない。


 ずっと。……ずっとだ。



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