03 虚報と流言⑦
わけがわからない。
いきなり怒り出した老執事ホルダ・マレードは、後方に控える四人の冒険者に対し、俺を痛めつける指示を出したのだ。
「や、ワイらの受けた依頼、あなたの護衛ですし」
四人のリーダー格らしい、大盾を持った全身鎧の戦士が異を唱えたが、すぐにホルダから報酬を上乗せされると「あざーす」と兜のバイザーを下ろした。
「悪いね、お貴族様。ワイらはこれでメシ食ってるんで」
大盾戦士のすぐ後ろに大剣を構えた戦士が立ち、その更に後方で、魔法使いと僧侶が均等な距離を保つ陣形。
普通、四対一であれば陣形など気にすることもなさそうだが、そこはプロらしく、手は抜かないということか。俺が戦える貴族という情報も入ってるのかもしれない。
「てめえら何してる!」
だが、屋敷のほうから柄の悪い連中がワラワラ出て来て挟撃されるとまでは思っていなかったのだろう、あからさまに動揺していた。
「なんだコイツら」
「どうして貴族の屋敷からチンピラが」
「こんなの聞いてないぞ」
そりゃあ、顔に刺青の入ったモヒカンとかが出て来たら驚くわな。
ベギナラが分かりやすいだけで、うちの家臣たちは見た目のロクでもなさなら五十歩百歩である。また、冒険者と軍人の違いこそあれ、実戦を経験してきたという点においても負けてはいない筈だ。
「あー、ホルダさん、こいつは駄目だわ」
形勢は逆転し、大盾戦士のリーダーが匙を投げた。
四対一から四対一〇。
それも全員が戦いの玄人であると察したらしい。
「おのれ卑怯な! 正々堂々と戦うことすらできんのか」
ぐぬぬと、タキシードの胸ポケットに仕舞われていたハンカチーフを噛むホルダ。
「重ねて言いますが、こちらに抗議を受ける謂れはありません。どういうことか説明くらいしてもらえませんか」
「白々しい!」
ホルダは喚き散らしたものの、多少なりと状況が見えたようで、大きく息を吐いてのち、ここへやって来た理由を口にした。
──キィーフ王国カルアン・ケンヨウイン殿下から婚約破棄を告げられたティアージュ・ドラナーク公爵令嬢は、失意のまま馬車で王城を後にしていた。
ところが一行を乗せた馬車は、不幸にも前方を走る悪名高い異国の貴族が乗る馬車に追突してしまう。
御者を庇ってすべての責任を取ると申し出た公爵令嬢に対し、被害者である馬車の主、野獣男爵シビカはその言質を逆手に取り、ドラナーク公に対し「婚約破棄されたのならこちらで引き取ろう」と脅し、ティアージュ嬢を無理やり連れ去ったのである──
「我が主人、サクリ・メーギッド伯爵は義に厚き御方。ティアージュ嬢を救わんと、わたしにアリス行きを命じられたのだ!」
ホルダは息巻いた。正義は我にあり、とばかり。
しかし、そんなデタラメを聞かされて、こちらは困惑しかなかった。
ちょっと待て。
どうしてそうなってるんだよ?
※登場キャラ解説
〇キューズ
大盾使いのタンク型戦士。キィーフ王国ではそこそこ知られた白銀級の冒険者。パーティのリーダー。
〇オリバー
大剣使いの一撃型戦士。受け身の指示待ちタイプでキューズがいないと何もできないが、言われたことは概ねきちんとこなす。
〇ギリータ
眼鏡をかけたオカッパ頭の魔法使い。
〇ベノカ
いいとこのお嬢様だった僧侶。
読んでいただきありがとうございます。
本作と同じ世界の物語をノクターンノベルズにて連載しています。
「ぼっち勇者のドーナツクエスト」
https://novel18.syosetu.com/n1164jk/
ノクターンな作品です。
作品をまたいで登場するキャラもいます。