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03 虚報と流言③


 ──血統魔法が発現しなかった役立たず。


 ティアージュは自身をそう卑下した。


「んなわきゃない。俺が言うのも何だが、そちら大変な美人さんでいらっしゃる。羨む人は多いでしょう」

「ありがとうございます。ですが、貴族の務めは一生。若い、わずかな間の美醜の差など、義務を果たせない我が身の空虚さを埋められるものではありません」


 内心ならともかく、口に出して女性の容姿を褒めるのは、俺にとってかなりの勇気を必要とした。もうちょいマシな顔つきだったら、もしかすると多少なりとスマートに女性を扱えている自分も、あるいはいたのかもしれないが、生憎とこの非貴公子(づら)が俺だった。


 この顔でこれまでやってきた。

 この顔でこれからも勝負していくしかない。


 今更、人生の理不尽を嘆いても仕方なかった。


 なのにティアージュの、この取り付く島の無さときた。


 俺は助けを求めて扉の横の壁に寄りかかっているロゼを見たが、不機嫌そうな彼女は無言のまま、「こっち見んな」というアイコンタクトを返してくるのみだった。反抗期とかそういった(たぐい)だろうか。


 応接室。


 アクトラーナ男爵邸は、まったくもってただの小さな屋敷で、ドラナーク公の城が如き大屋敷とは比べることすらおこがましい有りさまではあったが、どうにか客人を迎える応接室はあり、ティアージュはそこで俺と向かい合って座っていた。

 従者であるシキは彼女の後ろにピシッと立ち、警戒を怠っていない。馬車の中でドラナーク公に踏みつけられた箇所について尋ねたが「問題ありません」との回答だった。


 他職のことはよく知らないニワカの俺だが、おそらく戦士職であろうシキにしたら、あんな程度は負傷のうちにも入らないのかもしれない。戦士すげえ。


「ノブレス・オブリージュ、でしたっけ。高貴なるものは課せられた責任を果たすべし? でもそれ、時空魔法の有無とかで左右されるものではないでしょ」


 現に俺もアリス貴族特有の操役魔法は使えない。

 繰り返しになるが平民出身だしな。


「あ、え……」


 そこを衝いてみると、意外にもティアージュはうろたえた。


 あれ?


「それは……そう……なのですが」


 もっとこう、先ほどみたいな理路整然とした返しが来るのかと思ったが、ちょっと拍子抜けだ。


「まあ、そう心配しなくても、案外なんとかなるかもしれませんよ。昨夜はドラナーク公も興奮していた可能性があります。何せ、いろいろありすぎた」


 ティアージュの婚約破棄、アリス貴族である俺の馬車との事故、妹ラトゥージュ乱入から勢いで決めたっぽい俺への輿入れ発言。


 一晩経って、頭が冷えた今頃は後悔しているかもしれなかった。だってドラナーク公はティアージュの父親なのだ。普通は子供への愛情があるものなんだろう?


「お父様は、きっと……いえ、もしかしたらそういうことになってくれるかもしれませんね」


「そうそう。それにほら、俺にしても、俺を怖がる嫁さんなんて、どう接したものか悩ましくなりますからね」


 イヤミのつもりはなく、ただの感想にすぎなかったのだが、ティアージュにとってその言葉は随分とクリティカルだったようで、ハッとした表情になって俺を見た。


「あ、その、えっと……ああ、恥ずかしいですわ、アクトラーナ男爵様。私ったら、なんて失礼な態度を」


 顔を真っ赤にしてわたわたするティアージュを視界に収めながら、俺は遠いキィーフの王城にいるであろうカルアン殿下に想いを馳せていた。


 オイオイあんた、よくこの子を前にして、手を出さずにいられたなと。


 尊敬に値するぜ。



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