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02 被害者と加害者⑤


「だいたい俺、そちらの姫さんに頼まれてここまで来たんですけど、謝罪そっちのけでいきなり御家庭内のギスギスを見せつけられる罰ゲーム状態になってるの、いったいなんなんですかね」


 俺の文句を皮切りに、それぞれの発言がポンポン連鎖してゆく面白い現象が発生した。


「お嬢様、わたしが悪いのです。わたしがすべて」

 ↓

「駄目よシキ。言わないで。貴方は今日、あの場で私を守るために声を上げてくれた。私にも同じことをさせて頂戴。貴方は私の友人なのですから」

 ↓

「愚か者めが! まだそんなたわ(・・)(ごと)を! いつまでもそんなだから、おまえは殿下に見放されたのだ! 『正式な婚姻を結ぶまでは清いままでいたい』だと? そんな、処女(ガキ)みたいな甘っちょろいことを口にしているから、カーノ伯の泥棒猫にまんまとしてやられるのだ! あきれるばかりだ!

おまえの器量を以てすれば、容易く殿下との既成事実はつくれたものを!」

 ↓

「ねぇねぇお父様〜、せっかくだし、そこのゴリトロール男爵に、この無能の粗大ゴミ、引き取ってもらいましょうよ」


「え」


 愕然とした声で、ティアージュ嬢が俺を見た。


 瞳に怯えの色があった。


 無理もない。


 おそらく彼女がヒールを履いて背伸びをしたとて、俺の胸元にすら届くまい。


 圧倒的な身長差があった。

 横幅に至っては、倍ほどあるかもしれない。


 生理的な恐怖に駆られるのは自然なことで、責める気にはならなかった。まあ傷つくには傷つくのだが。


「わ、私は今後を神殿の修道院で過ごすつもりです」


「バカ者が! おまえは何も見えておらん」


 ティアージュ嬢の人生再起プランを、父ネオ・ドラナーク公爵は即座に否定した。切って捨てた。


「王家との結びつきを強める以外、おまえに価値などなかったのだ。それ以外の道を選ぶなど、我がドラナーク家にとっては災厄の種を蒔くに等しいのだ。──しかしィ」


 歪んだ表情で、ドラナーク公は俺を見た。


「悪くない」ポンと手のひらを打った。「そうだ、悪くないぞ。アリスにやってしまうのが、余計な心配をせずに済む最善の方法かもしれん! さすがはラトゥージュ、わしの自慢の娘よ!」


 両手を広げたドラナーク公のもとに、ラトゥージュはキャハハと抱きついて、うつむき震える姉をチラと見て、祝福した。


「おめでとう、お姉様! 幸せになれるといいですね!」


 笑った。耳ざわりな、(かん)高い声だった。


「いやいやスマンかったな男爵殿。本当に申しわけなかった。償いとして、うちの宝であるティアージュを輿入れさせようじゃあないか。婚約破棄された役立たずだが、純潔であることだけは保証するぞ。まさかイヤとは言うまい。被害者ぶったのだ、あさましく何かを欲しておったのであろう? ならばこれ(・・)を受け取り、とっとと失せるがいい」


 正気(マジ)か、この親子……。


「お父様!」


「ティアージュよ、せめて役に立て。おまえは無能だが、おまえに流れる血はそうではないかもしれない。おまえがどこぞの下級キィーフ貴族に拉致され、孕まされ、万が一にも時空魔法の才に恵まれた子を産み落とせば、我がドラナーク家の地位が脅かされるやもしれんのだ。この理屈くらいは分かるな?」


「う、うう……」


 本来なら味方である筈の肉親が、死刑宣告にも等しい言葉を口にする。その事実に耐えられなくなってしまったのか、ティアージュ嬢は額に手をやり苦しそうにして、その数秒後、シキに抱き留められるカタチで意識を失った。














読んでいただきありがとうございます。

本作と同じ世界の話をノクターンノベルズにて連載しています。

「ぼっち勇者のドーナツクエスト」

https://novel18.syosetu.com/n1164jk/

ノクターンな作品です。

作品をまたいで登場するキャラがいます。


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