01 小姓と隊長①
「どっかに婚約破棄された御令嬢とかいねえかな」
声に出して願望を垂れ流していた。
お断りの手紙に目を通し終え、溜め息と一緒に漏れ出てしまった。
俺は成り上がり者だ。
軍功が認められ、一介の兵士長から貴族になった「卑しい身分の男」だった。
小さな、本当に小さな領地を王国から男爵領として与えられてしまった。
いつまでも独りではいられませんよと、これまで部下だった家臣たちからせっつかれ、仕方なく身を固める決意をしたのだ。──が、肝心の相手がいない。
貧乏男爵に嫁いでくる物好きな貴族の令嬢など、まあ、いるわけがなかった。
何より俺は、どうしようもなくブサイクだった。
小さな子が俺の顔を見て泣き出すのにも慣れたほどだ。
変な解釈をする余地もない、明らかな事実なので受け入れるしかない、貴公子なんて言葉とは対極に位置する顔。
──野獣男爵。
社交界では俺のことをそう呼んでいるらしい。
でけえ図体をした、マナーもよく知らない、魔物レベルのブサイク男だと。
国内は無理だと思った。
なので、他国の男爵家、騎士爵家にも手紙を出した。譲歩できるギリギリまで条件を下げてみた。
駄目だった。
──婚約破棄された令嬢なら、ワンチャンあるんじゃね?
ふと、そんな考えが頭をよぎった。
それもあって、声に出てしまったのかもしれない。
「あれ? いま私、なんかキッショい言葉を耳にしたんですが」
小姓のロゼが、「うわ」という顔をしていた。
すすっと距離を置かれてしまった。
いや待って。違うから。ちょっと思っただけだから。