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賑やかな食卓


「いただきます」

「ぽふぃ!」

「はぁぴ!」

「きゅい!」


 朝の食卓にスイ達のご機嫌な声が響きました。スイも、二号君も、三号君も、早速、幻素水晶(エーテルクリスタル)に口腕を伸ばしています。


「す、スタッカ! そいつらを仕舞いなさい!」

「ままま、また増えているではないか! しかもでっかいのが!」


 お父様もお兄様も柱の陰に隠れながら、わたくしにそう言いました。


「お父様は仰いました。家族は共に朝食を取らねばなりません。もはやわたくしたちは家族です。ね~、スイちゃん?」

「ぽふぃ~♪」

「そんな恐ろしい奴を、余、余は、かっ、家族に迎え入れた記憶はない!」


 お父様が顔を真っ青にしてそう反論します。


「そうだぞ!」


 虚勢を張るお兄様。しかし、もはや卒倒しそうです。


「お兄様、恐ろしい方を家族に迎え入れたといえば、あの御方が数ヶ月後には朝食に参加されるとか?」


 そう、リテーヌ様との婚姻の儀が数カ月後にも執り行われるのです。


「……ああ、恐ろしい」

「さらに第一子が生まれた後に側妃を迎えられるとか?」 

「……あぁ、想像するだけで居たたまれぬ」

「ええ、わたくしはそれが恐ろしいのです」

「この私が悪いと言うのか」

「お兄様はよく胸に手を当てて考えてください。このような事態になったからこそ、朝の食卓には、癒やしが必要なのです。ね~、スイちゃん?」

「ぽふっ!」

「まて、その理屈はおかしい。海水浴でそいつらはこの私と父上を殺しかけたのだぞ」

「それは毒クラゲです。スイちゃん達はクラゲではありません。毒もありません。こんなにつぶらな瞳で、こんなに可愛いのに」

「ぽふぃ~♪」

「ひいいぃいぃ。邪悪な目をしているではないか」


 お兄様には一体何が見えているのでしょうか?


「……お兄様、視力検査をなさっては?」


 わたくしがそう言うと、押し黙っていたお母様が、ようやく口を開きました。


「ユージン、毒クラゲも平民も、自業自得だわ。従者の忠告に耳を傾けていれば、避けられた結末ではなくて?」


 なぜかお父様まで加勢します。


「そうだぞ、ユージン」

「貴方もです、陛下。貴方まで毒クラゲだらけの海に飛び込むなんて、侍従も生きた心地がしなかったでしょう。国を背負う者として、もっと慎重になさいませ」

「あ、あれはだな」

「ところで、東方には灸というものがあるそうよ。ろうそくの蝋を垂らすショック療法だそうだとか。今回の件、灸を据えると思って耐えなさい」


 ……お母様は何か灸について何か別のものと勘違いなさっているようですが、あえて訂正はしません。スイ達を灸扱いされるのも納得がいきませんが、しかし、スイ達と毎朝一緒に食事が取れるならそれでよしとするしかありません。


「スイちゃん、幻素水晶(エーテルクリスタル)は美味しいですか?」

「ぽふぃ♪」

「皆はどうですか?」

「はぴ?」

「ぽふぃぽふぃ」

「はぁぴ♪」

「きゅい♪」

「ぽふぃ♪」

「わたくしも嬉しいです」


 その日から、スイ達は食卓を囲む家族になりました。



 朝も夕も。


「今宵の食卓はやけに明るいな」

「きゅい?」


 鳴き声に気付き、お兄様は天井を恐る恐る見上げます。そこでは、三号君が天井から食卓を照らしてくれていました。ろうそくとは比べものにならない光量です。


「うわぁ! 何だアレは。く、クラゲが光って……」 


 後ずさりします。


「クラゲではありません。スイボの三号君です。名前はまだありません」


 一方のお母様は、スイボの小さなシャンデリアに感銘を受けたようでした。


「光るスイボなんて、初めて見るわ。全く役に立たない幻生生物と言われていたのに、スイボも使いようなのね」

「はい、お母様。スイちゃんの提案で、発光石を食べられるスイボを探したのです。スイちゃん達は優秀です」

「わたくしもテイムすれば使えるのかしら」

「残念ながら、テイムしただけでは明かりを消したり点けたりすることはできません。このスイちゃんが例外で、スイボは基本的に人の言葉を解せないようです。スキル〝C#〟がなければ命令もできません」

「そうなのね」

「お母様の寝室に設置できないか方法を考えてみましょうか?」

「ええ、お願い。きっと夜の読書が捗るわ」

「スイちゃん、一緒に頑張りましょう」

「ぽふぃ!」


 お母様にスイ達の価値を認めてもらうチャンスです。

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