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さらなる襲来

 私室に戻ると、エイヤがソファに横たわり、焼き菓子をもぐもぐとしながら、尻をボリボリと掻いていました。


「あ、おあえりなはい」

「エイヤ……」


 叱りつけたくなりますが、エイヤにとってはこれが普通なのでしょう。必ずしも貴族として相応しい立ち振る舞いを彼女に押しつけるべきなのか、今のわたくしには分かりませんでした。


「ぽふぃ!」


 わたくしに気付いたスイが、満面の笑みを浮かべ、わたくしに向かって飛び込んできます。


「スイちゃん、お利口にしていましたか?」

「ぽふぃ~♪」


 スイの頭を撫でると、スイもわたくしの手に身体をすりすりと擦り付けます。辺りを見回すと他のスイボ達の姿は見当たりません。どうやら皆は既に持ち場に向かったようです。


「エイヤも、お利口にしていましたか?」


 エイヤの頭を撫でます。


「はぁい。って犬扱いになってない!?」

「お手もしますか?」

「わん! って、するかーい!」


 そのとき、エイヤは何かの気配を察したのか、身を起こします。


「あ……」


 一瞬、面倒くさそうな表情を浮かべると、そそくさと自らの小間に引き上げていきました。


 その直後でした。


「スタッカ、エイヤはいるか?」


 お兄様の声です。


 振り返ると、お兄様がそこにいました。


「お兄様、今はわたくしだけの部屋ではないのです。ノックをしてください」

「ぽふ~!」


 威嚇するスイの姿を見て、お兄様は三歩ほど後ずさりします。


「ひょぇえクラゲ! ……そ、そんなことより、エイヤに伝えたいことがある」

「早速浮気ですか。リテーヌ殿下に殴られますよ」


 リテーヌ殿下――慣れませんが、これからは目上の存在です。王宮では形式上わたくしがナンバー四の序列でした。しかし、リテーヌ王太子妃殿下により、わたくしはナンバー五に繰り下がったのです。


「そうではない。王都中の憲兵の前に謎のステータスウィンドウが開き、結婚式の様子が映し出されたと報告を受けている。エイヤが何かをしたのではないか」


 そういえば――。


『王太子の婚姻の儀は、滅多にない機会ですよ。せっかくなら、参列できない皆様にピアリングしては?』

『へーい。〝ピアリング〟』


 そんなやりとりをしました。


「わたくしがそうするように言いましたが」

「エイヤのスキルの正体は何なんだ」

「〝ピアリング〟ですか。まだ正体は不明です。少なくとも、他人のステータスウィンドウを他人に見せることができるようですよ」

「そうか。良かった。学園では無駄にランクの高いだけの外れスキルだなんて言われていたからな」


 お兄様は少しだけ安堵したような表情を浮かべました。


「……お兄様? まだ、未練がおありなのですか?」

「……まぁな。あの気持ちに噓偽りはない。そう簡単に忘れることはできるはずがない」


 と、お兄様は力なく笑います。


「お兄様。わたくしは謝罪しなければなりません。エイヤの為とはいえ、わたくしは、お兄様に恥をかかせてしまいました」

「分かっている。騒ぎを収めるには、ああするしかなかった。どうせお母様の差し金だろう」

「……ノーコメントです」

「はは、口が堅いな。だが、感謝はしている。エイヤにとってはこのほうが幸せだろうからな。ただ、一つ残念なことがあるとすれば、この手で幸せにできないことか」


 お兄様はふと寂しげな表情を浮かべました。これが王族として生きることの息苦しさなのでしょう。貴族や王族は基本的に政略結婚しかできません。リテーヌ殿下との結婚は、公爵家との関係を強化するためという明確な目的があります。それ故に、お兄様には自由恋愛は許されないのです。

 

 けれど、この窮屈な世界にお兄様を閉じ込め、エイヤも引き込んでしまいました。


「……お兄様」


 エイヤを守ったことは正しかったと思っています。けれど、この息苦しい世界が正しいとは思えません。


 ……きっと、ソファーに寝転がり、尻を掻けるぐらいがちょうど良いのです。


「スタッカが心配することではない。リテーヌとはこれから愛を育んでいく。スタッカ。エイヤのことは任せる」

「ええ。もちろんです。けれど、お兄様。浮気はダメですよ」

「はは、命は惜しいからな」


 そう言って、馬鹿王子は去って行きました。


 わたくしは、ソファーに腰掛けて、天を仰ぎます。


「彼方立てれば此方が立たぬ。皆を幸せにするのは難しいものですね」

「ぽふぃ……」


 スイは口腕を伸ばし、わたくしの頬にピトっと触れました。


「ありがとうございます、スイちゃん」

「ぽふぃ」

「スイちゃんは、わたくしにテイムされて、窮屈ではありませんか?」

「ぽふぃ?」

「本来スイボとは、自由に、孤独に幻空間を漂う生き物ですよね。スイちゃん達を無理に縛り付けていないか心配なのです」

「ぽふぃ~♪」


 スイは優しい声色で、首を横に振ります。


「ぽふぃぽふぃ、ぽふぃ♪」


 そして、わたくしに頬ずりしました。


 スイが何を話してくれているのかは分かりません。けれど、一緒に居られて幸せだと言ってくれているように思えました。


 確かにスイボはただ漂うだけの存在。テイムでもされなければ、一つのところに留まることさえできません。彼らの意思とは関係なく、家族とも友とも離れ離れです。けれど、テイムされれば、テイマーのもとに留まることができます。


 だからこそ、わたくしには、スイちゃん達を幸せにする責任があるのです。そして、エイヤのことも。


 けれど、どうすれば良いのでしょうか。


「スキル〝C#〟スイちゃん達とエイヤに幸せにする」



``` csharp


var builder = WebApplication.CreateBuilder(args);

builder.Services.AddSwibo();

builder.Services.AddSkillDiscoveryMetadataGenerator();

var app = builder.Build();


app.ExposeSkillDiscoveryMetadata("csharp.スイちゃん達とエイヤに幸せにする");


app.MapPost("/", async (ISwiboContext context, CancellationToken cancellationToken) =>

{

var swibos = context.Swibos.ToList();

var eija = context.Humans.FirstOrDefault(x => x.Name == "Eija");


await MakeHappyAsync([.. swibos, eija], cancellationToken);


return Results.Ok();

});



app.Run();


```


『ビルドエラー、'ISwiboContext' に 'Humans' の定義が含まれておらず、型 'ISwiboContext' の最初の引数を受け付けるアクセス可能な拡張メソッド 'Humans' が見つかりませんでした。using ディレクティブまたはアセンブリ参照が不足しています。』


『ビルドエラー、名前 'MakeHappyAsync' は現在のコンテキスト内に存在していません』



 そうですね。


 きっとそれはわたくしが自らの力でやらなければならないことなのです。




エピローグにつづきます。

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