アイデア
王宮には大浴場があります。
基本的には平民の下女達が利用する場所ですが、わたくしのお気に入りの場所の一つです。
王族は自分専用のバスタブで侍女の手を借りて湯浴みします。そして、これが問題なのですが、バスタブにお湯を運ぶのも平民の下女もしくは下男なのです。そのため、頻繁に湯浴みすれば、彼らに重労働を課すことになります。王宮のお荷物扱いのわたくしなど、月に一度でも嫌な顔をされるのです。
しかし、大浴場ならば、温水管が完備されています。毎日入っても侍女や下女の手を借りる必要はありません。その上、皆が働いているこの時間帯は貸切状態でした。
わたくしが王族なのに下女のようなシンプルなミディアムヘアにしているのも、こうして侍女の手を借りずに自ら髪を洗うためです。
「シャワーというのは気持ちが良いものですね」
「ぽふぃ~」
このシャワーというものは外国の発明品です。新しいもの好きのお父様が王宮に導入させたものでした。俯いたヒマワリのような金属の円盤が壁に固定されていて、円盤には無数の小さな穴が開いています。その小さな穴から噴き出た湯水が雨のように柔らかく降り注いでいるのです。
あのシャワーを上下ひっくり返すと、恐らく柔らかな噴水のようになるのでしょう。
「シャワーの穴のようなものを、畝に沿って配置すれば灌水に使えそうですね」
「ぽふぃ?」
レバー式のバルブを締め、お湯を止めます。
「……固いですね」
「ぽふぅ」
スイに使えなければ意味がありません。
浴槽に浸かります。
透き通ったお湯ですが、実はこれは王宮の地下から湧き出している温泉です。少し熱いぐらいの温度です。
お行儀が悪いと叱る人もいないので、タオルを浴槽に浸けて、泡をタオルの中に閉じ込め、湯の中に潜らせます。
「ほら、スイちゃん、スイボですよ」
「ぽふ!」
泳ぐスイボを模して、水中を移動させると、スイはそれを追うようにすいすいと泳ぎます。しかし、タオルから手を離すと、タオルは水面に浮かび、たちまちスイボの姿は消えてしまいました。
「ぽふぃ……」
「わたくしも早くスイちゃんの仲間をテイムできるようにならないとですね」
「ぽふぃ!」
……。
今何か大切な何かを見落としたような気がします。再びタオルでスイボを作り、手を離すと水面に浮かんでいきます。
「……浮力」
「ぽふ?」
「浮力ですよ! 浮力を使えば上手くいくかもしれません!」
「ぽふぃ!」
スイも目を輝かせました。