帰途
帰途につくわたくし達を、ウルリカ社長は玄関先で見送ります。
「もしお時間があれば、わたくしどもの工場を見学なさって行かれませんか? スキル〝レプリケート〟の活用方法についてご説明いたしますわ」
「そうしたいのは山々なのですが、これ以上ご迷惑をおかけするわけには参りません。それは改めて正式な機会に」
エイヤは首を傾げます。
「せっかくだから、見てったらいいのに」
「エイヤ、別の機会にいたしましょう。ウルリカ社長、本日はこれにて失礼いたします」
「ええ。またのお越しをお待ちしておりますわ」
わたくしは、エイヤを押し込むようにして馬車に乗り込みます。
御者のかけ声と共に、馬車はゆっくりと動き出しました。
「どういうことなんですか? スタッカ様」
「あれは社交辞令というものです。見学してほしいとは本気では思っていません」
「ええ!? あまのじゃく~ どうやって見分ければ……」
軽薄だと思っていたエイヤの言葉遣いが、実の両親に対する気さくな北部方言とはまた違うことに少しだけ寂しくなります。わたくしを気遣って、貴族の好む王都中部アクセントに合わせてくれているのでしょう。けれど、あの両親とのやりとりを見た後では、何か物足りなさを感じてしまうのです。
「もしエイヤなら、友達を家に招いたとき、何か見せびらかせたい物があれば、わざわざ帰り際に足を引き留めて言いますか?」
「……うーん、むしろ最初に言う?」
「そうです。別れ際に言うということは、今は別にそれほど見せたいわけではないけど、好意だけは伝えて次回に繋げるための挨拶のようなものなのです」
「あ~そういうことかぁ。お貴族様ってなんでそういう遠回しな言い方するかなぁ」
「あの方は貴族じゃありませんよ」
「そうだった」
「けれど、大きな力を持つ者は、その力の大きさ故に、たった一言で他人を深く傷つけてしまうことがあるのです。あの方も大きな力を持っているということですよ」
「ふぅん」
馬車の窓に夕陽が差し込みます。人々が忙しなく行き交う街中を、馬車は王宮に向かってゆっくりと進んで行きます。
スイは慣れない環境に疲れたのか、わたくしの肩の上でこくりこくりと眠っていました。
「あ、そうだ。もうそろそろ半額野菜の時間だ。市場見てく?」
「……それは、少し興味があります」
「残念、社交辞令でした~」
「けれど、この馬車はわたくしが手配したものです。御者! 市場へ。半額野菜とやらを見学に参ります」
「だから社交辞令だって!」
エイヤの声は街の喧騒にかき消されて行きました。
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次の章でメインのストーリーは一旦終わりとなります。もうしばらくお付き合いください




