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再会

「エイヤ! 無事だったのざますね! おほ、おほほほほ!」


 と、厚化粧にド派手な口紅を付けた貴婦人……風の奇婦人。


「達者にしていたか! ほっほっ」


 と、不自然なまでにカールしたカイゼル髭の紳士……風の不審者。


 二人は身体中に付けた宝石をジャラジャラと鳴らしながら、両手を広げエイヤに駆け寄ります。


「うわ」


 エイヤはさっと身を躱しました。


 勢い余って壁に激突する妖怪達。白い壁に顔型が残ります。


「エイヤ、何故避けるのよん」

「そうだぞんっ❤️ エイヤ」


 突然裕福になった彼らが浮かれるのは理解できます。貴族になった娘が恥ずかしい思いをしないように、貴族っぽく振る舞おうとする親心も分かります。しかし、平民から見た貴族とはこんな珍奇な姿なのでしょうか。


「もう、オトン、オカン! 何なんそのしゃべり方。服もダッサいし。やめぇや。他人のフリしよう思たわ」


 突然エイヤが北部方言で話し始めます。彼女が王都から出たことがないことを踏まえると、王都内の北方系集落の家庭なのでしょう。彼らは、かつて王都であった北部から遷都に合わせて移住した一団で、彼らの間には今でも当時の言葉やアクセントが方言として残っているのです。


「あら、エイヤ。お言葉遣いがなっていませんざますわよん❤️」

「ウザ」


 どうしてでしょうか、エイヤがおしとやかな公爵令嬢のように見えてきました。目を擦ります。


「社長。……あれはよろしいのですか? 経費の無駄遣いでは」


 わたくしが尋ねると、ウルリカ社長はにっこりと笑みを浮かべます。


「ええ、お二方にお支払いする給与は、グロッケンのお代に上乗せしておりますので、お気になさらず」


 あのグロッケンはボッタクリ価格だったのですね。気づきませんでした。


「……次からは割引をお願いします。わたくしのお金があれに化けるのは癪なので」



 感動の再会ののち、席に着き本題に入ります。


「改めまして、わたくし王女のスタッカと申します。この度は、我が兄ユージンがご迷惑をおかけし申し訳ありません」

「構いやしません。エイヤも、せっかくやったら、王子様と結婚しといたら良かったのに」

「はぁ!? あんなバ……王子殿下となんか結婚したないわ」

「王妃になったら、大好きな豆のスープ食べ放題だったのにね。残念だったざますわねん❤️」

「豆のスープなんて昔っから毎日毎日食うとるやん! 身体が豆になるところやわ」

「……」


 わたくしは言葉に詰まります。


 エイヤはわたくしを指差しながら、両親を叱りつけました。


「ほら、変なこと言うから、王女殿下が怒ってしまわはったやん」

「……エイヤ、違うのです。わたくしは仲の良い親子を引き離すような形となってしまったことを、大変心苦しく思っているのです」

「べっ別に、仲良くなんかっ」 


 そう、エイヤにとっては、特別仲良くもない、これが本来の日常なのです。この賑やかな一家からその日常を奪い平穏を乱したのは、紛れもなく我が王家です。わたくしは、エイヤをお兄様から救ったのだと驕っていました。けれど、わたくしも別の形でエイヤから大切なものを奪ってしまったのかもしれません。


 エイヤの両親は神妙な表情を浮かべます。


「王女殿下、エイヤはもう十八です。もう一人前の大人です。もう自分のことは自分で決められます」


 エイヤの父がそう言うと、エイヤの母がそれに続きます。


「たまに元気な顔を見られたら私たちは満足です。殿下自ら身を挺して、娘の気持ちを尊重してくださったことを感謝しています」

「殿下、どうか娘をよろしくお願いいたします」


 エイヤの両親はわたくしに頭を下げました。


「何なん!? 急に改まっ――」


 わたくしはエイヤを制します。


「はい。わたくしの命ある限り、エイヤが平穏に生きられるよう努力いたします」

「ぽふぃ~♪」

「スイも協力すると申しております」

「ぽふぽふ」



 こうして、わたくしは己の未熟さを思い知ったのでした。


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