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外出

「スタッカ殿下、こちらが、スキル〝血液検査〟の結果です。数値がずいぶん良くなられましたな。何かよきことでもございましたか」


 白髪交じりの穏やかな医師が、目を細めて微笑みました。宮内診療所長の伯爵です。


「ええ。このところ御前菜園を再開墾しているのです」

「ほう、御前菜園とは懐かしい。今はもうあの場所は荒れ地になっているとか」

「それは数ヶ月前です。昔の御前菜園には程遠い規模ですけれど、今は開墾が進み、スイ達のおかげで少しずつ形になってきました」

「ぽふぃ♪」


 と、スイは胸を張るようなポーズをします。


「なるほど。日の光を浴びることも、テイムすることも代謝を促進しているのかもしれませんな。この調子ならば、街に外出なさっても問題ないでしょう。僭越ながら、くれぐれもご無理はさらぬように」

「ありがとうございます」


 わたくしは診察室を出ると、早速、護衛と馬車を手配し、先触れを走らせました。


 王宮にいてはエイヤがお兄様やリテーヌ様に鉢合わせしてしまいますが、ラタトゥイユ事件や近衛兵ビックリ事件の余波は続いており、婚姻の儀の日まで毎日のように畑に出向くのも角が立ちそうな状況でした。


 そこで、今日は御用商会ことレッドフォード=レイクロフト商会に出向くことにしたのです。主な目的は、エイヤが両親に会う機会を作ることです。そして、わたくしも顔合わせできればと思っています。あくまでも私的な訪問ですが、民の生活ぶりを知る機会にもなるでしょう。


「エイヤ、今日は商会に参りましょう。この前はご両親に会えなかったので」


 私室に戻ったわたくしがそう言うと、エイヤがさっと鞄の中に何かを隠しました。あれは学園の教科書です。一瞬だけ見えたその教科書の表紙は、よほど使い古したのかボロボロに見えました。


 そういえば、エイヤは学園を休学中です。お兄様との一件がなければ、もう既に卒業できていたでしょうに。エイヤにも何か思うところがあるのでしょう。


 エイヤは背中に鞄を隠し、少し引き攣った笑顔でわたくしに向き直りました。


「えっ、突然だね。アポは取らないんですか?」

「王族ともなれば、逆にアポを取ってはいけないのです」

「ああ、王族の訪問を断れば不敬だから?」

「それに加え、承諾したらしたで、王族に対して許可をするという意味で不敬になるのです」


 まあ、お買い物程度ならば身分を隠してお忍びで訪問するほうが良いのですが、今回はエイヤの両親に会うという目的があるので、そうもいきません。


 馬車に揺られ、商会のこの国の現地支社に向かいました。


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