新芽
「農業って全然スローライフじゃないじゃないですか~! ヤだ。もう疲れた~」
エイヤは、木陰に寝転んで、はしたなくも両手両足を広げてジタバタしています。近衛兵の前でよくもまあ。
「あえて効率を追求しないこともスローライフなのです」
「ぽふぃ♪」
効率を追求するなら、わたくしの財産で庭師を雇い庭師に命じるだけで済むのです。わたくしたちのしていることは全くの非効率です。わたくし達で水をやり、虫を捕り、鹿を追い払い――。
「はぁぴ! はぁぴ!」
アピィがわたくしを呼んでいます。
「どうしたのですか? アピィちゃん」
「はぁぴ♪」
先日、鹿に食われ、茎だけがわずかに残ったきゅうりの株。アピィがその周りをくるくると泳ぎ回っています。わたくしが近寄ると、アピィは口腕で一点を指しました。
一見、それはただの緑の点のようでした。けれど、顔を寄せて目を凝らすと、小さな小さなきゅうりの葉が、光を求め大空に向かって芽吹いていたのでした。
「新芽ですね」
「ぽふぃ!」
「ホントだぁ」
効率だけを求めれば、引き抜きいて別の作物を植え付けたことでしょう。けれど、わたくし達はそうしませんでした。こうして再び芽吹くことを信じていたからです。
そして今、スイとアピィはくるくると泳ぎ回り、身体全体で喜びを表しています。
「きゅうりも一生懸命頑張っているのです。これからも皆で大切に育てていきましょうね」
「ぽふぃ♪」
「はぁぴ♪」
きっと、このような瞬間のために、わたくし達はスローライフを目指しているのです。




