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鹿ビックリ作戦の結末

 その夜。


 月明かりの下、人々が眠りにつき、王宮が静寂に包まれた頃。


 御前庭園に大きな音が響きました。 


 パゴーン! ガランゴロン


 ドドドド……


「!?」


 城壁の番兵がビクリとします。


 ……バーン! ガタガタガタ


 庭園内には何者かの足音が聞こえます。少なくとも侵入者が一人ではないと判断した番兵は、鐘を打ち鳴らしました。


「侵入者! 侵入者!」


 王宮のあちこちで一斉に松明や、ランタン、発光石が灯ります。


 同時刻。宮内診療所――。


「幻ポータブルメロデーボックス!」

「安ぅい~安ぅい~❤️」


 止めどなく謎のセールストークを繰り広げる近衛兵に医官が頭を抱えていたそのとき。


 パゴーン! ガランゴロン


 ドドドド……


「!? 侵入者か!?」


 我を取り戻した近衛兵は、剣を手に取り、診療所の扉を開け放ちます。そして、躊躇うことなく、夜の闇の中に飛び込んでいきました。


 同時刻。近衛兵舎――。


「ラタトゥイユ……ズッキーニじゃなかったとは……」


 料理人は、月を眺めながら、一人打ちひしがれていました。


 パゴーン! ガランゴロン


 ドドドド……


 バーン! ガタガタガタ


 カンカンカン!


『侵入者! 侵入者!』


 その時、宮内診療所の方角から飛び出してきた黒い人影が、料理人の目の前を横切りました。


「侵入者!?」


 料理人は躊躇うことなく、人影に向かって擲弾を投げつけます。


 同時刻。近衛兵詰め所――。


 パゴーン! ガランゴロン


 ドドドド……


 ドドドド……バーン! ガタガタガタ


 カンカンカン!


『侵入者! 侵入者!』


 仮眠室に明かりが灯り、近衛兵が一斉に飛び出します。


 ドドーン!!


 窓の外に閃光が走り、爆風に窓ガラスが揺れ動きました。


「爆発!? 侵入者は爆薬を持っているぞ!」

「銃撃隊出動! 銃撃隊出動!」

「敵はあちらに向かったぞ!!」


――同時刻。御前菜園。


「はぴっ!」


 鹿の一団を検知したピケの報せに、アピエッタがレバーを操作した直後でした。鼠用のギロチンが動作し、ロープが切断されます。


 パゴーン! ガランゴロン


 岩の上に落ちた金だらいは、大音を立てて、草むらへと転がっていきます。


「ピェ!?」


 と、鹿達は驚いて、逃げ惑います。


 ドドドド……


 少し離れたところで足を止め、様子を伺う鹿達。


 バーン! ガタガタガタ


 カンカンカン!


『侵入者! 侵入者!』


 番兵の叫び声の後、少し間を置いて、鹿は慌てふためきます。


 右往左往していた一頭が、何を思ったのか王宮に向かって走り出すと、一頭、そして一頭と、その後を追って王宮へと向かいました。鹿には群れで行動する習性があるのです。


 ところが、仮眠室に明かりが灯り、近衛兵が一斉に飛び出します。


 直後。


 ドドーン!!


 閃光と爆風が先頭の鹿を襲いました。


「ピャ!?」


 鹿達は散り散りになり、庭園を逃げ惑います。


「あっちに影が見えたぞ!」

「威嚇射撃 撃ち方ヨーイ! テェーッ!」


 パン! パン!


 発砲音が、四方八方から迫ります。


 鹿達は腰を抜かしながら、命からがら王宮の奥の森へと逃げ帰って行きました。


「敵はどこだ!?」

「宮内診療所の近くにいたという話だが」

「俺は兵舎の近くと聞いたぞ」

「この辺に影が見えたのだが……」

「何だこの金たらいは」

「さあ、この辺はゴミ捨て場だからなぁ」


 こうして、近衛兵達は侵入者を見つけることが出来ずに夜を明かしたのでした。


 翌朝。


 朝食会は物々しい雰囲気に包まれていました。近衛兵が食卓を取り囲み、毒味役が毒味を徹底しています。普段は誰も毒味しないわたくしの分まで毒味が行われるほどです。


 お父様は重々しい口調で、事情を説明しました。


「――ということがあったのだ。スタッカ。もしかしたら侵入者がまだ潜んでいるやもしれぬ。しばらく近衛兵を護衛に付けるが、気をつけるように」


「!?」


 わたくしは、朝食を共にするスイボ達と顔を見合わせます。思い当たるところしかありません。


「……お父様、大変申し上げづらいのですが」

「何だスタッカ」

「その音の原因は、きっとわたくしです」


 こうして、わたくしは大目玉を食らったのでした。


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