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御前菜園のなれの果て


 王宮の敷地の一角にやってきました。ここは「御前菜園」と呼ばれる菜園ですが、今や荒れ地と化しています。


 かつて新鮮な野菜や果物はそれだけで高級食材だった時代、青果はこの菜園で育てられ、王の食卓に運ばれていました。しかし、流通が発達した今、菜園を運営するよりも民間から買い上げるほうがコストが低くなり、見捨てられた御前菜園は、このように荒廃しているのでした。


 一時は近衛兵の廃棄物置き場となっていたのか、壊れたマスケット銃の成れの果てがそこら中に埋まっています。



 わたくしは、その一角を再び開墾し、自分のための野菜を育てようとしていました。しかし――。


「スローライフといえば農業ですのに、そう上手くはいきませんね」

「ぽふぃ……」


 わたくしの畑の作物はその大半が枯れ果て、唯一ネギだけが生き残っていました。


 例えば、〝成長促進〟など、農業系の少なくともBランクスキルがあれば良いのですが、スキルがなければ、自ら耕し、水をやり、施肥し、虫を捕り、摘心や摘果をしなければならないのです。


 しかし、王女であるわたくしは、王宮の敷地とはいえ、出歩くのに一手間かかります。現にわたくしの後ろには数人の近衛兵がついていました。毎日のように出れば税金の無駄遣いとの誹りを免れません。


「スイちゃん、じょうろを持てますか?」

「ぽふぃ?」


 スイは、じょうろの取っ手を口腕で絡めて、持ち上げようとします。


「ぽふっ!!!」


 しかし、じょうろが少し動いたところで、取っ手がスイの身体を透過し、スイは反動で上に飛ばされてしまいました。


「ぽふぃ~!?」


 空から必死に泳いで戻ってきたスイ。どこか元気がありません。


「ぽひぃ……」


 頭を撫でます。


「よしよし。スイちゃんが悪いわけではありませんよ。やはり、エーテル体は現の物体に強く干渉するのが難しいのですね」


 実際、スキル〝C#〟でスイに与えられる命令は口腕で小さな物を押したり、引いたりすることだけです。スイは、スイボの中でも珍しいほどに賢く、ある程度は人の言葉を解し、言葉で頼めば命令以上のこともしてくれます。しかし、物理干渉能力は並のスイボと変わらないようです。


「ぽふぅ」

「さあ、幻素水晶(エーテルクリスタル)を食べてください」

「ぽふぃ!」


 野菜が枯れる理由は、まず第一に水が足りていないことです。水路から水を引くことはできますが、幻生生物であるスイボの力では堰を開閉できません。じょうろで水を撒くこともできません。


「……さて、困りました」


 こういうときに役に立つのは先人の知恵です。わたくしは王宮図書館に向かいました。


 巨大な書架に、所狭しと並んだ書籍。ここ、王宮図書館には古今東西の貴重な文献が収蔵されています。きっと役に立つのは古代文明の歴史書でしょう。


「噴水……は大げさですね。水路との高低差が足りませんし、水浸しになってしまいます。でも、小さな噴水を沢山作って、チョロチョロと出せればいいのですね。ならば細い管を使って、サイフォンの原理で――」

「ぽふぃ?」

「そうでしたね。スイちゃんでも制御できる仕組みを考えなければなりませんね」


 古代水道のバルブの記述を見つけます。


 しかし、スイボにはあまり複雑な物理干渉はできません。ネジを回したりするのは難しいでしょう。テコの原理で大きなレバーを操作するのも難しそうです。


「小さなレバーを小さな力で動かして、バルブを操作する方法――」


 そんなものは歴史書にはありませんでした。



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