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カメラ

「えぇあぃあぃ?」


 そのスイボは、鳴き声だけではなく、その外見も独特でした。


「じゅるり、美味しそ~」


 エイヤは涎を拭います。


「エイヤ、スイボは食べ物ではありません」

「え~どう見ても目玉焼きだよ、これ」


 そう、真上から見ると目玉焼きにしか見えないのです。二つの瞳に加え、傘のど真ん中に大きな黄色の目玉がありました。この子も標識幻素水晶ビーコンエーテルクリスタルに引き寄せられて、やってきたのでしょう。


「ぽふぃ! ぽふぃ!」


 スイがわたくしの周りを泳ぎ回ります。


「この子もテイムしたいのですか?」

「ぽふぃ!」

「では、よろしくお願いします」

「ぽふぃ♪」


 目玉焼きの黄身のような部分に、スイが口腕を乗せました。ぽわんと暖かな光に包まれます。二匹の額に正方形のモザイクの紋章が浮かび、そして体内に浸透して行きました。


「お初にお目にかかります。スイをテイムしているスタッカです。一緒にスローライフを目指しましょう」

「……あぃ?」


 この子も、人の言葉を解せないようでした。


「ぽふぃぽふぃ」

「えぇあぃあぃ!」


 スイの翻訳で、伝わったようです。


 そこへエイヤが割り込みました。


「ちょっと待って、今、幻生生物が幻生生物をテイムしたよね!?」

「そうですが?」


 そういえば、スイがエイヤの前でテイムするのはこれが初めてでしたね。


「テイムのテイムなんて聞いたことないって! ねえ、聞いたことある?」


 馴れ馴れしく話題を振られた近衛兵は、困惑気味に答えました。


「……いいえ。そんな話は聞いたことが」

「スイちゃんは、賢いからできるのです。ね~」

「ぽふぃ♪」


 と、スイはドヤ顔で、わたくしを見上げました。


「さあ、疲れたでしょう? 幻素水晶(エーテルクリスタル)を食べてください」

「ぽふぃ~」


 スイは一口一口噛みしめるように味わいます。とてもとても愛らしい姿です。


「いや、世紀の大発見では?」


 エイヤはしつこく食い下がります。


 お母様が平然としていた理由が少し分かる気がします。きっと、内心は驚いていたのでしょう。けれど、騒げば騒ぐほど、わたくしはスローライフから遠ざかってしまいます。平静を装って配慮することも、貴人に求められる資質なのです。


「……エイヤ、これはスイちゃんだからできることなのです。もしこのことを広く知られてしまえば、スイちゃんが騒動に巻き込まれるだけでなく、多くの幻生生物や幻獣がテイムを試みるよう強制されるかもしれません。わたくしはそれを望まないのです」

「なるほど……?」


 エイヤには色々教育しなければなりませんね。


 ところで、新入り君はどのような性質を持っているのでしょう。


「ステータスオープン」


――クラス:カメラ


「カメラ……とは何でしょう?」


 そして、奇妙なことに、新入り君のステータスウィンドウには、わたくしの顔が映っていました。まるで鏡のようですが、わたくしが顔を右に動かすと、映った顔は左に動きます。つまり、鏡像ではありません。そのうえ、視点もずれています。まるでわたくしを下から見上げるような――その視点にいるのは、新入り君でした。


「まさか、これはあなたが見ている景色なのですか?」

「……あぃ?」


 曖昧に微笑みながら、肯定も否定もせずエイヤに向かってゆらりと流されてゆきます。ステータスウィンドウにはエイヤの顔が映りました。


「エイヤの顔が見えます」

『エイヤの顔が見えます』

「何か王女様の声が二重に聞こえる気がする……?」

『何か王女様の声が二重に聞こえる気がする……?』

「エイヤの声がステータスウィンドウから聞こえています」

『エイヤの声がステータスウィンドウから聞こえています』

「あぁ! この子から王女様の声が聞こえてます」

『あぁ! この子から王女様の声が聞こえてます』

「ステータスクローズ」


 ステータスウィンドウを閉じると、声は二重に聞こえなくなりました。


「あなたは見聞きした光景や音をこちらに伝え、反対にこちらの音をそちらに伝えてくれるのですね」

「あぃ……?」

「ぽふぽふぃ?」

「ぇあ!」


 やはりそのようです。


「スイちゃん、この子の名前を付けて良いですか?」

「ぽふぃ♪ ぽふぃ♪」


 スイは急かすように、わたくしの周りをすいすいと泳ぎ回りました。


「そうですね。では、見張り番として活躍できそうだから、ピケはどうですか?」

「ぽふぃ?」


 スイが尋ねると、新入り君は傘をパタパタとさせました。


「えぇあぃあぃ!」

「ぽふぃ♪」


 気に入ってくれたようです。


「では、改めてよろしくお願いします。ピケちゃん」

「……あぃ?」


 ピケは作業小屋に向かって、ゆっくりと宙返りしながら、のほほんと流れていきました。マイペースな子のようです。


「ではピケちゃんには、見張りを任せましょう」


 ノミで小屋のスリットを拡げ、ピケのためののぞき窓を作りました。


 その間に、エイヤと近衛兵には杭を打ってもらい、畑を一周するようにロープを張ります。これで鹿の侵入を防げるかは分かりませんが、やらないよりはマシでしょう。


「スキル〝C#〟お手」

「はぁぴ!」


 崩れた畝にも、無事な畝にも、柔らかな噴水が上がります。これで残った株が復活すると良いのですが。


 こうして、新たな脅威への暫定対処を行ったのでした。



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