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宮中晩餐会

 定期的に開催されるこの宮中晩餐会には、国内の主要貴族が出席していました。錚々たる顔ぶれに、王女であるわたくしでさえ気後れしてしまうほどです。


 私の侍女として給仕を務めるエイヤが、口休め一品を運んできたそのとき、指先にピトッと冷たい感触を感じました。二号君改めアピィの口腕です。それが、お母様からの合図でした。



――開いたらお手


``` csharp


var builder = WebApplication.CreateBuilder(args);

builder.Services.AddSwibo();

builder.Services.AddSkillDiscoveryMetadataGenerator();

var app = builder.Build();


app

.ExposeSkillDiscoveryMetadata("csharp.開いたらお手")

.WithSwiboEventHook("/");


app.MapPost("/", async ([FromBody]SwiboEventNotification notification, ISwiboContext context, CancellationToken cancellationToken) =>

{


if(notification.EventType == SwiboEvent.ChangeReport && notification.TryParseContextData<SwiboContactSensorEventData>(out var data) && data.OpenState == SwiboOpenState.Opened)

{

var swibo = context.Swibos.OfType<SwiboBot>().First();

await swibo.PressAsync(cancellationToken);

}


return Results.Ok();

});



app.Run();


```


 それが予め発動しておいたスキルです。そして今、お母様がラックス入りのオルゴール箱を開いたのです。箱は箱でも、わたくしにとってはパンドラの箱でした。


 わたくしは立ち上がりました。


「お兄様! 馬鹿なお兄様には愛想が尽きました」


 わたくしは給仕するエイヤの肩に手を置き、お兄様を指差しました。


「スタッカ! いきなり何を言う」


 お兄様は不愉快そうにカトラリーを置きました。それでも、わたくしは怯むことなく捲し立てます。


「このエイヤは、お兄様を愛していません。すべてお兄様の勘違いです」

「何を言っている。私は確かに聞いたのだ。私が『月が綺麗だ』と言ったとき、彼女は『まだ三日月』だと答えたのを」

「その日は、何月何日ですか?」

「……忘れもしない、去年の十月七日、学園祭の夜だ」

「十月七日。それは、三日月の夜です」

「……たしかに、そんな気もするが、何の関係がある」


 お兄様はエイヤの顔に見とれて、月を見ていなかったのでしょうか……。


「つまり、エイヤは文字通り三日月を三日月だと言ったに過ぎないのです。婚約の承諾と勘違いなさったのはお兄様です」


 来賓の貴族達がざわめきます。


「なっ……。では、エイヤは私を愛していないのか」


 ここで、エイヤが口を開きます。


「……はい。満月でもないのに綺麗とか、何言ってるんだろうって思ってました」

「何だと!?」


 お兄様は顔面蒼白で立ち上がります。


「お兄様は学園に通いながらも、平民の言葉使いを知らず、平民の『まだ三日月』という言葉を勘違いして、国政を混乱に陥れたのです。これを馬鹿と言わずして何というのでしょう」


 視界の隅で、婚約者のリテーヌ様が頭を抱えるのが見えました。


 本来ならば王女のわたくしが、お兄様を馬鹿だと罵るのは不敬な行為です。けれど、この場にいるすべての人が視線を微妙に逸らしながら沈黙を守っていました。お兄様を擁護してもわざとらしく、批難しても角が立つからなのでしょう。つまり、皆、内心で同じことを考えているということです。お兄様が馬鹿だと。


 ですが、これだけではエイヤは救われません。「馬鹿王子のせいで不憫だけれども王宮を混乱に陥れた人物」として、やはり、まともな人生を送ることはできないでしょう。何か理由をつけて処されても不思議ではありません。


――その力を民のために使いなさい。


 さて、ここからが本番です。


「わたくしの大切な侍女をお兄様に渡すわけには参りません。故に、この時を以て、側妃候補エイヤをわたくしの養子とし、ロングアレイ公爵として、エイヤとお兄様の婚約を破棄いたします」


 ……ああ、やってしまいました。


 飛んで火に入る夏の虫とは、まさにこのことです。


 ですが、お父様が動かない以上、この国の法律で、強制的に婚約破棄する方法はこれしかなかったのです。


 貴族の当主は当然に子の婚約を破棄する権利を持っています。なぜなら、婚姻とは政略の手段であり、政略上不都合な婚約を認めるわけにはいかないからです。わたくしは、王女の立場に付随して、ロングアレイ公爵位が与えられています。まあ、領地はわたくしの私室と執務室だけで、何の役にも立たない名誉爵位のようなものですが、領地を伴う有効な爵位である以上、こういうことには使えるのです。


 ……民のために力を行使するというのは、こういうことなのでしょうか。何か違うような気もするのですが。


「ぽふぃ~」


 スイが幻空間から口腕だけを出して、わたくしの頬をつんつんしました。姿は見えませんが、なんとなく、ニヤニヤとしていそうです。


 そう。このアイデアはすべてパクりです。婚約破棄騒動のお兄様と、アピィをテイムしたスイに着想を得たものです。


 茶番に茶番を当てつけることで、貴族達はこの騒動を馬鹿馬鹿しい兄妹喧嘩だと思い、これ以上詮索することはしないでしょう。中には「公式にはそういうことになったのだ」という理解をする貴族もいるでしょうし、市井では下世話な噂話の一つや二つは出回るかもしれません。しかし、権力闘争に生きる貴族達にとって、今回は平民が妃にならなければどうでもいい話だったのです。


 万事解決。


 ……。


 …………。


 と、まあ、そう上手くいくものではありません。わたくしはお父様に呼び出され、コテンパンに叱られました。ここでお母様の指示だと明かせば余計な波風を立てることになるので黙って受け入れるしかありませんが、お兄様よりも長々と説教されるのは解せません。


 こうして、スローライフへの道を一歩も二歩も後退したのでした。


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