二号君の命名
「父上、さすがにリテーヌの我が儘に付き合いきれません。我が剣でケーキを切り分けるなど――」
「あれは本物のケーキではないぞ」
「父上! イェールド公爵家の言いなりなのが問題だと申し上げているのです。あのような『初めての共同作業』などという、得体の知れぬ儀式に何の意味があるというのです」
「元はといえばユージン、お前に非があるのだ。イェールド公爵家から免税特権を要求されてもおかしくないのだぞ。たかがケーキ。微笑ましい望みではないか」
なにやら、婚姻の儀のリハーサルについての揉め事のようです。まあ、わたくしには関係ないことですが。
食卓にはスイを含め四匹のスイボたちがテーブルの上で横一列に並び、行儀良く幻素水晶を待っていました。朝食は皆の健康確認を兼ねています。
「おはようございます、今日の調子はどうですか?」
「はぁぴ!」
「きゅい?」
「きゅみ?」
「ぽふぃ~……」
スイは少し眠そうですが、皆顔色は悪くありません。二号君も、ラクシアも、ラックスも楽しそうに揺らめいていました。
「スイちゃん、今のうちに二号君の名前を決めましょう」
「ぽふぃ!」
そこにお兄様の声が割り込みます。
「父上! 承服できません!」
「我が儘を言うでない!」
「そうよ、ユージン。身の程を弁えなさい」
うるさいですね。
「ぽふぃ~」
「二号君の名前は、そうですね……。ミツバチのように働き者だから、アピィはどうですか?」
アピとは古代イタリエ語でミツバチを意味する言葉です。
「ぽふぃ~♪」
「二号君もどうですか?」
「はぴ?」
「ぽふぃぽふ」
「はぁぴ!」
二号君も気に入ったようです。スイはわたくしに振り向いて、頷きました。
「ぽふぃ!」
「では、二号君は今日から『アピィ』です」
スイと二号君改めアピィが青く光りました。ステータスを開くと、二号君の名前がアピィに更新されていました。
「アピィちゃん、改めてよろしくお願いします」
「はぁぴ♪」
少しだけ言葉が通じたようです。
こうして、スローライフ仲間と絆を深めたのでした。
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