訪ねて来た友人
朝にデニスと話した後は、楽譜の理解や基礎能力を高めるソルフェージュを勉強をしていた。
ソルフェージュには、ピアノに合わせて楽譜通りの音程を歌う練習もあるのだが、ルイーズは歌が苦手であった。音程はとれるのに、自分が歌おうとすると不思議と音程が外れる。
かつて、ヘンリーの前で歌ったら、“音痴だな”とからかわれた。
ムッとしたが自分でも分かっていたので、反論はしなかった。むしろ、恥ずかしくて二度と人前で歌いたくない!と思ったものである。
だが、授業でやらねばならないのならば仕方ない。どうにかよい評価がもらえるようにやるのみだ。
「......はあ。やるべきことはいつでもあるわね」
声楽の教本をパタンと閉じる。
一息ついていると、ジーナがやって来た。
「お嬢様、フローレンス様とコンラート様がいらっしゃりましたが」
「フローレンスとコンラートが??」
彼らが屋敷に訪ねて来るのは初めてである。
服装を整えて居間に向かうと、彼らは心配げな顔をしていたがルイーズを見ると笑顔になった。
「あら、思ったよりも元気そう! 音楽院を休んでいるくらいだから、かなり体調が悪いのかと思っていたのよ」
「これを持ってきたよ」
コンラートからずっしりと重いフルーツの盛り合わせを渡された。
「栄養をつけて欲しいと思ってたくさん持ってきてしまった」
「お気遣いありがとう。心配させてしまったわね」
自分を気遣う彼らを前に、アードルフとエレオーラのことを聞いてよいか迷った。
(今なら、尋ねやすいのではないかしら)
アードルフとの関係は家同士で決めた縁談ではない。
決められた縁談ならば、多少、目をつぶらなくてはならないところもあるだろうが、アードルフとは恋人であって無理して一緒に過ごしていかなくてもいい関係だ。真実が知りたかった。
「ルイーズ?どうしたの黙っちゃって」
「......あのね、あなたたちに話したいことと、聞きたいことがあるわ」
そう言うと、ルイーズはつい3日前に起きたことを語り始めた。
話し終えると、彼らは困った表情をしている。
「私がこの話をしたのは、アードルフがどうしようと考えているのか手がかりが欲しかったからなの」
「………だとしたら、私たちよりアードルフ兄本人に聞いた方がいいんじゃないの?」
「フローレンス、彼に聞きづらいから私たちに尋ねているのだよ?」
「だって........。分からないことがあるなら、本人同士で話し合うべきじゃない」
フローレンスの言うことは正しいだろう。
「私、アードルフに直接、聞くにはまだ覚悟ができていないの。彼がキスされているのを見て、思った以上にショックを受けたから........。でも、彼女とアードルフの過去のことをもう少し詳しく知りたい」
「..........私たちから話を聞こうとしているのは、アードルフ兄を受け入れるために必要なことなんだよね?」
フローレンスはアードルフの味方だ。アードルフが不利になることはしたくないと思っているのだろう。
「フローレンスはアードルフのことを慕っているものね。話を聞いたからといって、彼を問い詰めようとは思ってないから安心して。知っておきたいだけなの」
ルイーズの言葉にコンラートが反応した。
「フローレンス、エレオーラのことを話してあげよう。ルイーズは傷ついている」
「……分かった。それで、なにを話せばいい?」
フローレンスは仕方がない、といった様子でコンラートの意見を受け入れた。
「エレオーラさんはなぜ、駆け落ちすることになったの?アードルフとはうまくいっていなかったの?」
「うまくはいっていたわ。だけど、執事の息子が告白したから状況が変わったのよ。だから、執事も責任を感じて亡くなることになったのだし」
デニスの報告では、執事だった男性は息子の行動を苦にして命を絶ったと聞いている。
「アードルフは駆け落ちした後、彼女たちを絶対に許さないという態度だったの?」
「いいえ。むしろ逆よ。2人のことを心配しちゃって、住む場所の提供からお金まで面倒を見ようとしたぐらい。でも、それをアードルフ兄の父上であるフリードリヒ様がかなりお怒りになってね。エレオーラの実家、ライトムント伯爵家を冷遇したのよ」
「だから、亡くなる人が出たのね………」
そんな厳しい状況ならば、エレオーラは実家に頼ることはできなかっただろう。
「彼女は子どもがいるそうね。彼女があの店で働いていることを知って、あなたたちはどう考えた?」
「困窮していると知れば、助けたい気持ちになったわ。だけど、アードルフ兄に止められたの。僕が彼女に話を聞いてみると言って」
「そう.......。あなたたちはそれを知っていて私に伏せていたのね」
「それについては、フローレンスを責めないでくれ。私が口止めしたんだ」
コンラートが慌てて口を開いた。
「ルイーズの前で言いにくいが、アードルフはかつて彼女を愛していた。だから、情があった分、どうしても気になるんだろう。だが、誤解しないでくれ。アードルフが今、大事にしているのは君だ」
「大事に思うのに、私にはなにも言わないの?」
「それは余計な心配をさせたくないからだろう」
「知っているのと、知らないのでは全然違うわ」
沈黙の時が流れる。これではまるで彼らを責めているようだ。そんなつもりはなかったのだが。
「ごめんなさい。あなたたちのせいではないわ。今回の行動は彼自身が考えてしていることだものね」
「すまない。私たちも速やかに事情を話すべきだった」
「いえ........」
泣きたくないのにまた涙が勝手に頬を伝った。涙を見て彼らは慌てている。
「泣きたくないけれど、涙が出てしまうのよ。意外とああいう場面は傷つくものね」
また、沈黙の時間が過ぎたのだった。
ルイーズは自分に自信が持てなくなっています
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