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【完結】婚約者の王子より、冴えないチェリストに恋した公爵令嬢  作者: 大井町 鶴(おおいまち つる)
◆第8章 青天の霹靂 

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見守るアードルフ

店に恐る恐る潜入すると、すぐに女性店員がやってきた。彼女はデニスを見ると、なんだか嬉しそうにしている。


「今日も来てくれたのね!私に会うためかしら?フフッ」


女性店員がしなをつくりながらデニスにまとわりついているではないか。


「あら、そちらのお二人は?アメリーゴの知り合い?」

「ああ、そうなんだ。実はさ、君の働く様子を彼らにも見せたくて。だから、君を見つめても目立たない席に案内してくれない?」

「うふふ、いいわよ」


女性店員はルンルンしながら奥まった席に案内してくれる。


席につくとそのまま彼女が注文をとる。注文を聞き終えると、彼女はデニスにウィンクして去って行った。


レウルスがすぐに口を開いた。


()()()()()って誰だよ」

「ははは。女性を口説くにはなかなかちょうどいい名前でしょう?」

「同名のやつに謝れよ。皆が軽薄だと思われる」

「はは、レウルスさんは手厳しいや」


彼らはどうでもいい話をしていた。ルイーズはアードルフを見つけてそれどころじゃなかった。


「あまり大きな声で話して目立っちゃダメよ。........あのカウンター席にいるのがアードルフよね?」


アードルフは目立たないようにカウンターの隅に座っていた。ウイスキーをちびちびと飲んでいるようだ。


「あんな風に酒を飲んでいる姿を見ると、貴族の坊ちゃんに見えないな」

「レウルスさんだって貴族じゃないですか」

「いいからお前は黙ってろよ」


確かに背中を丸めて時折、あのエレオーラという女性店員の方を見る以外は、彼は地味に過ごしている。普段の華やかな雰囲気からは程遠い姿だった。


エレオーラを見つめる彼の眼差しは真剣であった。ルイーズたちが変装する必要が無かったのではというぐらい、彼はエレオーラだけを見ていた。


「アードルフ、真剣ね」

「……そうだな」「………」


ルイーズの言葉に2人がそれぞれの反応をする。デニスはなにも言わない。


アードルフはどうにかしてエレオーラを側に呼ぼうとしているみたいだが、エレオーラに避けられているようである。


アードルフは言わば、彼女に捨てられた立場だ。なのに、こうも彼女を心配して見守る様子は何とも言えない気持ちにさせられた。


ルイーズたちが運ばれてきた食べ物や飲み物に口をつけながら、アードルフの様子を伺っていると、先程、デニスに色目を使っていた女性店員がやってきた。


「アメリーゴ、この後の予定はどうなっているの?」

「え?いやあ、こちらの2人の予定にもよるかな」

「そちらのお2人は恋人同士?」

「そうだ」


レウルスが躊躇なく答える。ルイーズはドキリとした。


「いいわねえ。私たちももうすぐそうなるのかしら?ね、アメリーゴ?」

「お、おうよ。それより、仕事中に話しかけていいのかよ?」

「なによ、あなただって散々、口説いてきたじゃない」

「ごめんごめん。ちょっと照れ臭かったからさ。......口説くって言えば、あの子も口説かれているみたいだな」


デニスがエレオーラのことを目線で示した。


「ああ、エレオーラね。あの子、子どもがいるようには見えないわよね」

「へえ、子どもがいるんだ?」

「そうよ。だから、私の方がいいでしょ?」


アメリーゴことデニスがエレオーラに興味を持ったと思ったようだ。


「オレは君の方がいいよ。それはともかく。子どもがいるんじゃ苦労してるんじゃないか?」

「そう、だからああやって昔の友人だっていう男が来て、気に掛けているのよ。お金を渡しているみたい」

「へえ」

「じゃあアメリーゴ、帰る時に声をかけてよね」

「分かった。後でな」


女性店員がやっと離れていく。


「アメリーゴ、モテてるじゃない」


ルイーズが言うと、デニスが焦っている。


「これはあくまで仕事の一環です。ジーナさんにはなにも言わないで下さいね!」

「あなたの態度が自然過ぎてビックリしているわ。あの女性、本当にあなたのことを気に入っているようね」

「オレはジーナさん一筋なんで」


デニスと話していると、アードルフがすくっと立ち上がったのが見えた。


帰るらしく、近くの店員になにやら話しかけて会計をしている。


「まだここからですよ」

「え?」


デニスの謎の言葉が気になっていると、デニスも会計を頼んだ。素早く先ほどの女性店員が寄って来る。


「この2人を送ってからまた戻って来るからさ」

「分かったわ」


アードルフが出て行くのを見届けてから、ルイーズたちも距離を保ち外に出た。


デニスはそのまま少し離れたところまで歩くと、世間話をするように立ち止まって店の方をさりげなく見るように言う。


「店の脇にアードルフ様がいます。店脇には店員用の連絡口があるんです。ちょっと待っていて下さい」


デニスが言ってすぐ、先程、アードルフの会計を担当した店員がエレオーラを連れて出て来た。アードルフはエレオーラと向かい合うと、手になにかを握らせている。


「お金かしら」

「そうだろう」


アードルフは、エレオーラの背中をさすっている。エレオーラは泣いているようだ。


「………見てはいけないものを見ている気分だわ」

「アードルフ様はああやって、店に来てはそれとなく金を渡しています」

「そうなのね………」


アードルフが直接、彼女にお金を渡しに来るというのが、彼の心配度を表わしているようだった。


(婚約者として何年も一緒にいたら、情も移るわよね.......)


かつての自分もそうであったと理解を示そうとした瞬間、驚くことが起きたのだった。

アメリーゴって響き、よくありませんか?


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